こんにちは。
はるき ゆかです。
本作「幸福な遊戯」は、今や大ベストセラー作家・角田光代氏のデビュー作を含む、三編からなる短編集です。
小説「幸福な遊戯」あらすじ・感想
「幸福な遊戯」あらすじ
立人とハルオ、そしてサトコは、三人で共同生活を始めることになり、そこで一つだけ決められたルールがあった。「同居人同士の不純異性行為禁止」。他の誰かを部屋に連れ込んでもかまわないが、同居人だけはNG。そう言いだしたのは、立人でした。本当の家族との関係が破綻しているサトコにとって、この三人の生活は楽しく、温かく心地の良いものでした。ずっと、この心地よい生活を続けたかったサトコですが…。
登場人物
サトコ
大学生。留年したので大学五年生。三人の同居生活で唯一の女性。家族との関係は破綻しているが、姉とはときどき会う。
ハルオ
立人の高校の同級生でフリーター。上京して、立人のアパートに転がり込んできた。
立人
バイトをしながら大学院に通っている。この家では料理担当。穏やかで一番大人。
感想
男二人と女一人の共同生活というのは、女性は緊張したりしないのだろうかと、読み始め思いました。
しかし、サトコは自分の家庭が破綻しているため、この生活を本当の家族のように感じています。
そして、立人という常識人で穏やかな性格の男性が、リーダーシップを取り、父親のような役割を果たしているので、三人はうまく暮らしていけているように思いました。
三人でのんびりとしたこの暮らしを、サトコは心底居心地よく感じていたのですが、ある日この生活はあっけなく終わりを告げることになります。
ハルオは、自由奔放なタイプで、上京して来たのも『自分探し』のようなもので、特に目的はなかったのではないかと思います。
そんなハルオがやりたいことを見つけたとき、子供が家庭から巣立っていくように自立し、今まで甘えてきた環境から自分の身を厳しい環境に置きたいと思ったのかもしれません。
最後、一人でサトコが缶蹴りをして遊ぶ子供たちの声を聞いているシーンは、とても切なくなります。
みんな家に帰っていくのに、一人取り残されてしまう子供。
まるで、それはサトコ自身のようでした。
「無愁天使」あらすじ
「私」は、母が亡くなって以来、買い物依存症になってしまう。それは、「私」だけでなく、妹も、父親までも。母が多額の生命保険に加入しており、母の命の代わりに大金が転がり込んできた家族。「私」は、買い物てしているときだけは心が満たされています。お金が底をつき始めていた頃、「私」は風俗で働き始めることに。「私」は客たちに、嘘の自分の境遇を話し、さまざまな趣味の男と寝る。そんな中で、一人の初老の客と出会い「ただ話してください」と言われる。その男の目的とは?
登場人物
私
母親が亡くなってから買い物依存症になる大学生。家族全員の浪費のせいでお金が底をつきかけ、風俗で働き始める。
妹
「私」と同じく買い物依存症。特に高価なものを買いがち。今は家から出ていき、恋人と暮らしている。
父
「私」と同じく買い物依存症。突然、長い旅に出ると言い残し、どこかへ消えてしまう。
ハルミ
「私」が働いている風俗店の同僚。
ハルミの恋人
「私」の頼みを聞いてくれる人。何故か「私」を見抜いている。
野田草介
「私」の客。「私」を一度も抱かず、ただ話をしてくれと言う初老の男性。
感想
私自身は、大きな買い物や無駄な浪費をすることにすごく罪悪感を感じるタイプの人間なので、この短編を読んでいる間中、ものすごく緊張していました。
しかし、本作の「私」の家族は、母親の死によって心が壊れてしまい、その死を浪費することによってのみ忘れることが出来たのかもしれません。
ただ、角田さんの書く、家族三人で買ったモノたちが部屋中に溢れている描写は、本当に素晴らしいと思いました。
いろいろな物が所狭しと積み上げられている光景が、本当に目の前に浮かんできます。
とても、私にとっては、居心地が悪く、不安な気持ちにさせられた作品ですが、とても美しい物語です。
そして、野田草介の目的とは一体何なのかを知ったとき、なぜか少しホッとした気持ちになりました。
「銭湯」あらすじ
八重子は、元舞台女優を目指していたが今は普通のOL。芝居をしていた頃の貧乏暮らしをしていた頃の習慣で、銭湯に通っている。八重子には、この銭湯に気になる二人の人物がいて…。一人は、平凡な顔と体の同世代の女性。身体を隅々まで時間をかけて丁寧に磨き上げている。もう一人は、老婆。一度捕まったら最後、何時間もその話に付き合わされてしまい、少々周囲から迷惑がられている。そんな八重子は、自分が芝居を続けられず、結局普通のOLという道を選んだことにコンプレックスを持っていて…。そして、会社をさぼった日。八重子はあることに気づいて…。
登場人物
高沢八重子
大学生の頃、学生劇団で芝居をしていた。今は普通のOL。自分の生まれ故郷に嫌悪感を持っている。貧乏だった学生時代の名残で今も銭湯に通っている。
ヤエコ
今も学生劇団で演劇をやりながらアルバイト生活をし、毎日充実した生活をしている八重子の想像上のもうひとりの自分。
銭湯の女
銭湯で自分の体を隅から隅まで磨き上げる女。八重子は銭湯でいつも彼女を観察している。
銭湯の老婆
銭湯でよく会う老婆。銭湯の客を捕まえては孫の自慢をしている。ある日、八重子はあることに気づいて…。
京市
今も学生劇団で芝居を続ける八重子の元彼氏。
花田妙子
八重子の勤める会社の先輩OL。趣味は同業者の商品にクレームを入れること。理不尽なことばかり言うので、会社では浮いた存在の49歳。
感想
八重子は、芝居を諦めたことにコンプレックスを抱いているので、「ヤエコ」という想像上の自分を作り上げています。
母からの手紙の返事では、八重子は「ヤエコ」になり、今も学生劇団で芝居を続けていることになっています。
誰しもが、自分の今の生活を「こんなはずじゃなかった」と考えたことがあると思います。
もちろん、自分の夢をかなえられた人もいるとは思いますが、その中でもやはり人生に後悔はつきもの。
ある日、会社をさぼって、髪を切り、3時に開店すると同時に銭湯に行った八重子。
みんなが外側から見える人生とは、全く別の人生を送っているのではないかと、八重子は自分の作り上げた「ヤエコ」とだぶらせて考え始めます。
銭湯では、誰もが裸になります。
もしかしたら、銭湯という場所でしかわからないその人の本当の姿が存在するのかもしれません。
そして、最後に浮かび上がってくる八重子自身の本当の姿に、少し驚きました。
ぜひ、あなたも本作を読んで、驚いてみてください。
「幸福な遊戯」は角田光代のデビュー作
本作「幸福な遊戯」は、今や大ベストセラー作家となった角田光代さんのデビュー作です。
角田光代について
1967年生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。
この作品で海燕文学賞を受賞され、作家デビューしています。
様々な作品が映像化され、「八日目の蝉」「紙の月」「対岸の彼女」などは映画・ドラマ化され、大ヒット。
最近では柴咲コウ主演で「坂の途中の家」がドラマ化されました。
その他、直木賞をはじめ、野間文芸新人賞、坪田譲治文学賞、路傍の石文学賞、川端康成文学賞、中央公論文芸賞など多くの賞を受賞。
現在では、さまざまな文学賞の選考委員もされています。
一ファンとして
私は、角田光代さんが描く世界が、少し怖くもあり、勇気づけられることもあり、一ファンとして大好きな作家のひとりです。
角田さんの描く恋愛や家族は少し歪んだものが多いのですが、だからこそとてもリアリティをもって読者の胸に迫ってきます。
多くの作品を読んでいますが、多作な作家さんなので、まだまだ私の「未読分本棚」には角田さんの作品があります。
楽しんで、大切に読んでいきたいと思っています。
小説「幸福な遊戯」感想 最後に
小説「幸福な遊戯」の感想でした。
角田光代さんのデビュー作ということで、今回読んでみたのですが、世界観がずっと変わらないことに驚きました。
1991年の作品なので、30年近く前に書かれたものですが、全く色あせていません。
今では珍しくないフリーターですが、ハルオはこのとき既にフリーターとして本作に登場しています。
ぜひ、おすすめの一冊です!
以下の記事で、角田光代著の小説の感想を書いています。
よろしければ、併せてご覧になってみてください。
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