こんにちは。
はるき ゆかです。
4日ほど前に柚木麻子著「BUTTER」読み終わりました。
本書は、2007年~2009年にかけて起こった『首都圏連続不審死事件』を元に書かれた小説です。
しかし、読み進めて行くうちにこの事件のことはすっかり忘れてしまいました。
本書は、働くこと、友情や人とのつながりがどれだけ人にとって大切なことなのかを描いた小説です。
「BUTTER」 あらすじ
週刊誌記者の町田里佳は、男たちの財産を奪い殺害した犯人・梶井真奈子の独占インタビューを取りたいと考えていた。
梶井真奈子は、若くも美しくもないただの太った女だった…。
それなのになぜ男たちは騙されてしまったのか。
里佳は、親友の伶子のアドバイスを受け、梶井真奈子との面会を取り付けることに成功する。
梶井真奈子は、自分にインタビューしたいのであれば…とあることを里佳に命じる。
それ以来、梶井真奈子の言うとおりに行動する里佳は、見た目も内面も大きく変貌していく。
そこに親友の伶子や恋人の誠までもが巻き込まれて…。
「私は特別で選ばれた女」感
あなたは、木嶋佳苗という女性をご存じでしょうか?
彼女は、2012年に、3人の男性を練炭中毒で殺害したとして死刑判決を受けた死刑囚です。
事件当時、私自身も友人たちと木嶋佳苗についてよく話していたのを思い出します。
ワイドショーなどでもこの話題で持ち切りでした。
報道では、木嶋佳苗に対して悪意しか感じないような写真ばかりが使われていたため、正直、私も「なんて不細工な女なんだ」と思った記憶があります。
しかし、木嶋佳苗の裁判を傍聴したほとんどの男性が、報道とは全然違って優雅で上品なしぐさと可愛らしさを彼女に感じたと言います。
結婚詐欺で総額1億円以上を貢がせたことが、ちょっとわかるような気がするという男性もいたようです。
この事件が連続殺人事件であること以上に世間を騒がせたのは、木嶋佳苗の容姿にあったと言えるでしょう。
お世辞にも美人とは言い難い彼女に、何人もの男性が騙され、事件当時は、私もとても不思議に感じたものでした。
しかし、今は、それほど不思議だとは思いません。
私自身も、数年前に木嶋佳苗のような女性に出会ったことがあるからです。
女性の集団の中に一人は、なぜかいつも一段上から人を見下ろす女性がいます。
それほど美人でもなければ、スタイルがいいわけでもなく、いいお家のお嬢様でもないのですが、そういう体(てい)で自らを語り、他の人を見下したような態度を取ります。
私は特別で選ばれた女。
すでに、自分がついた嘘に自分が騙されている状態です。
木嶋佳苗はまさにそれだったのだと思います。
私が数年前に知り合ったその女性は、もちろん、人を殺めることまではしていませんが、身内でも恋人でもない男性から大金を出させることを何とも思わない人でした。
そして、「私ならそれくらいしてもらって当たり前」と、そこまで親しくない私にまで堂々と言い放っていました。
一人の男性の人生を狂わせてしまいましたが、全く悪いことをしたとも思っていないのです。
というより、自分は人の人生狂わすくらいに価値がある女だと思っているのです。
木嶋佳苗は、3人の男性を殺めたことは認めていないようですが、自分のためなら死んでくれて当たり前…くらいのことを思っていたんじゃないかと勝手な想像をしてしまうほど、「私って特別な女なの」感を醸し出している気がしてなりません。
その罪悪感のなさは一体どこからくるのか。
彼女たちに共通するのは、すごく「努力」していることです。
お金を出させるために、相手の男性に多くの時間を割いていました。
「私みたいな特別な女があなたのために時間を割いているのだから、当たり前」
それが、罪悪感のなさの理由かもしれません。
「BUTTER」感想
本書は、とても長い小説です。
しかし、時間軸としては半年くらいの物語です。
主人公の町田里佳に、あまりにもいろいろなことが起こるのと、人物描写、背景・風景描写、食べ物の味や見た目の描写、心理描写、比喩を用いた季節の描写などがとても細かく描かれているので、ストーリーをただ追うというより、それぞれを頭の中で「映像」として感じられる小説です。
私は、正直、あまり細かく説明される小説は好きではないのですが、本書については、このさまざまな「描写」に引き込まれてしまいました。
そのため、私自身、いちいち頭の中で映像化していたこともあり、読むのにとても時間がかかりました。
特に食べ物に関してのそれは、目の前にそのお料理が本当にあるかのような気持ちになり、お腹がいっぱいになったような錯覚さえ覚えました。
本書は「首都圏連続不審死事件」を元に書かれているので、もっと事件の核心に迫るような小説かと思っていたのですが、全く違いました。
それは、本書の参考文献に挙げられている『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』を併せて読んでみて、強く感じたことです。
そして、私には里佳のような友人が多いというのも本書に引き込まれた理由の一つです。
どうにかして里佳を救いたい!というよくわからない気持ちが強くなって、最後の場面(p.550あたりから)では感動で涙が止まらなくなりましたw
ここまで、本にどっぶり浸ったのは、村上春樹著「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」以来です。
木嶋佳苗も梶井真奈子も、女友達いなかったんだろうな…。
そして、もしかしたら、本書は男性にはなかなか理解しづらい小説なのではないかと思いました。
最後に
柚木麻子著『BUTTER』の感想でした。
梶井真奈子を通して、木嶋佳苗と私の知人がオーバーラップして、立ち止まり考えさせられながら読みました。
30代以上の女性に特におすすめです!