『さいごの毛布』感想 著者 近藤史恵|老犬ホームの心温まる物語

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

老犬ホームを舞台にした心温まる物語。

犬と暮らすということや人との付き合い方、家族について、改めて考えさせられました。

「さいごの毛布」 あらすじ

犬の最期を看取る「老犬ホーム」で働くことになった智美。初日から捨て犬を飼うことになってしまったり、脱走事件があったりと、トラブル続きの毎日だ。若い犬を預ける飼い主を批判してオーナーに怒られたり、最期を看取らない飼い主や、子供に死を見せたくないと老犬を預けた親に憤り……。ホームでの出来事を通じ、智美は、苦手だった人付き合いや疎遠な家族との関係を改めて考え直し始める。世知辛い世の中に光を灯す、心温まる物語。

角川文庫「さいごの毛布」裏表紙より引用

老犬ホームというと、盲導犬を引退した犬の世話するところという印象がありますが、最近では、さまざまな理由で老犬となった愛犬の面倒を見れなくなった人が預ける「老犬ホーム」の話題を目にします。

本書を読んで、「老犬ホーム」の実情や印象が大きく変わりました。

老犬ホームの現実

本書に出てくる老犬ホーム「ブランケット」は、オーナーの摩耶子さんと元動物看護師の先輩・碧さん、そして主人公の梨田智美の3人で、15頭ほどの犬の世話をしています。

「ブランケット」は、利用料金は月に4~5万円、一括で120万円~150万円を支払うと病院代以外の追加料金なしで生涯面倒を見てくれるというシステムです。

智美は、愛犬を最期まで看れない場合、捨てるか保健所につれていくよりは、ある程度の金額のお金を支払って最期まで看取ってくれる老犬ホームの存在を良しとしながらも、疑問を抱きます。

確かに、犬にとってはこれまで一緒に過ごしてきた家族に最期を看取られることが最も幸せなことだと思います。

しかし、飼い主にもいろいろな事情があります。

私自身、本書を読むまでは引退した盲導犬や飼い主が突然亡くなったり病気になった場合に預けられるところが老犬ホームだと思っていました。

本書に出てくる飼い主たちが、老犬ホームに愛犬を預ける理由は、今まで最期を看取ってきた私自身からすると少し身勝手なのではないかという気持ちになります。

しかし、もちろん、保健所についれていったり捨てたりするよりはずっといいと思いますが…智美と同様、納得できる理由もあれば、どこか解せない気持ちが残る理由もあります。

本書を読んで、犬を家に迎える前に、本当に愛犬の最期を看取れるのかを考えることは大切なことなのだと改めて考えさせられます。

犬を迎えるときにはクリアできていたことも、後々、事情が変わってしまうこともあります。

そして、どれほどの手を尽くしてもどうしても愛犬と共に暮らしていくことが出来ない場合のみ、老犬ホームという選択をするべきであり、老犬ホームは、そんなときのためのものであるべきです。

 

また、本書にも出てきますが、これは想像に難くないことですが、老犬ホームの前に犬を置き去りにする飼い主がいます。

お金は払いたくないけれど、保健所に連れて行ったり捨てるのはしのびない…ということなのでしょうが、老犬ホームはボランティア団体ではありません。

しかし、きっと「老犬ホームなら何とかしてくれるだろう」という卑劣な飼い主です。

本書では、「ブランケット」に置き去りにされたパピヨンのララを、智美は自分の犬として育てると言い出します。

智美は、ララに自分自身を投影していたのかもしれません。

「ブランケット」に就職できるまでに、何度も就職面接に落とされ、家族ともうまくやっていけない智美自身を。

個性的な登場犬たち

まだ5歳のクロ、巨大ポメのタヌ吉、元焼き芋屋さんの飼い犬だったビーグル犬の小麦、警戒心のつよいダルメシアンのダニエル、噛み癖のあるチワワのノエル、ジャックラッセルテリアのクララ、トイプードルのティアラ、黒いラブラドールレトリバーのノノ…など、とても個性的な犬たちが登場します。

読んでいるとその姿が想像出来て、本当に楽しいです。

この子たちが、自分たちが捨てられたことを理解しているという切ない現実はありますが、「ブランケット」で大切にされて余生をすごす姿は、とてもやはりとてもホッとさせられるのでした。

本書には、巨大ポメのタヌ吉と飼い主の絆、飼い主が元焼き芋屋さんだった小麦の脱走の理由…切ないですが、犬って本当にいいなと思わせてくれるエピソードも描かれています。

変わっていく智美

主人公の智美は、まだ20代で名の知れた大学を卒業しているのに、人付き合いが苦手で就職活動がうまくいきませんでした。

そして、友人のススメでこの老犬ホーム「ブランケット」に就職します。

智美は、特に犬が好きだというわけではありませんし、犬に関する知識もないのですが、面接の時にオーナーの摩耶子さんが言った「この仕事、犬が好きだときついから」という言葉にちょうど当てはまる人材でした。

しかし、「ブランケット」で働きだして、智美は変わっていきます。

相変わらず、人付き合いが上手なわけではありませんが、ララを引き取って自分の犬として育てると宣言することが出来たり、智美にはこの仕事がとても向いているようです。

それとともに、ララも少しづつ智美を自分の飼い主として認め、懐いていきます。

 

そして「ブランケット」のオーナー摩耶子さんと碧さんにも、それぞれの「事情」があります。

犬と暮らすということ

犬と暮らすということの中には、その死と向き合うことも含まれています。

しかし、元気な間は共に暮らし、その死と向き合うことが出来ない飼い主もいるようです。

子供に愛犬が死ぬところを見せたくない…などということも。

本書の中にも、そういった飼い主が出てきます。

そして、智美自身も「ブランケット」の中で老犬の死に遭遇します。

犬は人間よりずっと寿命が短いです。

特別な事情がない限り、やはり、私は愛犬の最期を看取りたいと本書を読んでより強く思うようになりました。

「さいごの毛布」最後に

「さいごの毛布」の感想でした。

本書は、とても心温まる物語です。

そして、老犬ホームという存在が、人間と犬との関係にひとつの選択肢を与えてくれるものだということを知ることができました。

犬好きな方にはもちろん、ハートウォーミングな物語が好きな方にもおすすめの一冊です。