『クリーピースクリーチ』感想 著者 前川裕|心の底にある劣等感

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、前川裕著「クリーピースクリーチ」読み終わりました。

本書の前作「クリーピー」は、「クリーピー 偽りの隣人」として映画化されており、私はこの映画も観ています。

とても怖い映画で、香川照之さんの怪演を、今もはっきり覚えています…。

そして、その続編として書かれたのが本書です。

「クリーピースクリーチ」 あらすじ

琉北大学の職員・島本龍也は、学生の御園百合菜から指導教授のセクハラの相談を受けた。だが百合菜は、大学内の女子トイレで惨殺死体となって発見される。しかも事件は、獣のような金切り声を現場に残す女子学生連続殺人へと発展していった。かつて猟奇殺人事件を解決した琉北大学教授の高倉孝一もまた、事件の渦中に巻き込まれていく。日常に潜む闇の恐怖が忍び寄る!

光文社文庫「クリーピースクリーチ」裏表紙より引用

前作の「クリーピー」は主演の高倉孝一役を西島秀俊が演じ、映画化され「クリーピー 偽りの殺人」として公開されました。

本書はその続編となっており、高倉は現在本書の舞台となる琉北大学の教授になっています。

コンプレックスが引き起こす犯罪

学歴、容姿、生育環境、性格、貧困…など、人は誰もがコンプレックスを持っています。

そして、そのコンプレックスをばねに良い方向に迎えれば良いのですが、それが良くない方向に向かってしまうことも多いようです。

 

本書の語り手である島本龍也は、琉北大学文学部事務課の主任です。

同僚には、長身でやせ型、端正な顔立ちの中橋信二、中橋に恋い焦がれている加納希美、地味で大人しい派遣社員の柴田妙子がいます。

島本にも、いくつかのコンプレックスがあります。

容姿と学歴。

出身高校は進学率も高く、島本自身は、自分のような男しての魅力のない人間は学歴で勝負するしかないと思っていたのですが、商社マンだった父が脳溢血で亡くなり、大学進学を諦めざるを得なくなります。

島本は仕事は出来るのですが、自分の容姿に自信が持てないようです。

 

そんな島本が恋をします。

同じ大学の学生部の職員の柳瀬唯です。

彼女は、容姿端麗で慶応大学を卒業しています。

唯は、御園百合菜という文学部の女子学生から、ある相談を受けています。

百合菜は、ゼミの担当教授である尾関からセクシャルハラスメントを受けており、高倉ゼミに変更してほしいというのです。

島本は、唯からその相談を受けているうちに、唯に少しづつ惹かれていきます。

そんな中、学内で殺人事件が起こります。

その被害者は、なんと、その御園百合菜だったのです。

彼女が、琉北大学連続殺人事件の最初の被害者でした。

 

島本のストーカー気質的なものを感じさせる唯への気持ちの描写が、導入部分から描かれており、かなり怖いです。

男性というのはそういうものなのかもしれませんが…。

 

御園百合菜は、学内の女子トイレで殺害されるのですが、そのとき近くにいた学生から、獣の鳴き声のような異様な声が聞こえたという証言があり、その後続く連続殺人のたびに、その声が響き渡ります。

最後の殺人を除いては。

そして、この声の正体が、わからないのが読みすすめるうちに恐怖を増幅させるのですが、私としては、この結末は、本書の少し残念な部分かもしれないと思いました。

 

登場人物それぞれが、周囲から見て全くわからないコンプレックスを持っており、そのコンプレックスがこの連続殺人の根底にあるといえます。

また、知的で清楚で美しい唯にも、秘密があります。

そして、彼女の少し不可解な行動も、その秘密が明らかにされたときに理解することが出来ます。

本心を打ち明けていたら、こんな悲しい結末にはならなかったのに…と残念な気持ちになりました。

犯罪者の心理

連続殺人鬼になるかならないかは、紙一重なのかもしれません。

本書の犯人も、憎しみを持って人を殺害したことがきっかけで、連続殺人鬼として覚醒してしまいます。

その最初の殺人がなければ、普通の人生があったはずです。

 

ほとんどの人は、憎しみを持ったからといって人を殺めることはないのかもしれませんが、もし何かのきっかけで人を殺害してしまったときに、その後、快楽殺人鬼となってしまう可能性がないとはいえません。

本書の最も怖いのは、その「可能性」が誰にでもあるということに気づかされることです。

 

そして、本書の犯人が殺人の渦に取り込まれてしまったことは、理解はできませんが、少し哀れな気もします。

最後に

前川裕著「クリーピースクリーチ」の感想でした。

前作の「クリーピー」は映画を観たのですが、原作は読んでいません。

続編として書かれた本書ですが、前作の原作を読まなくても充分楽しめる内容になっています。

しかし、「クリーピー」は、映画とは少し違うようなので、機会があれば読んで見たいと思います。