こんにちは。
はるき ゆかです。
昨日、辻村深月著「ツナグ」読み終わりました。
本書は映画化もされているので、作品自体は知っていたのですが、私にとって本書は「初・辻村深月」でした。
ファンタジーな要素が前面に押し出されているようですが、実際のテーマはそこではなく…。
「ツナグ」について
一生に一度たったひとりだけ、死者と再会させてくれる「ツナグ」。
使者と書いて「ツナグ」と読む。
使者とは、生者と死者を会わせることができる力を持つある一族が代々受け継いでいる「社会奉仕」の仲介役である。
本書は5つの章に分かれている。
1つ目の章は、突然死したアイドルを心の支えとしていた平凡なOLを描く「アイドルの心得」。
2つ目の章は、母に癌の告知が出来ずに逝かせてしまった頑固な息子を描く「長男の心得」。
3つ目の章は、親友に抱いた嫉妬心から起こしてしまった「事故」に苛まれる女子高生を描く「親友の心得」。
4つ目の章は、姿を消した婚約者を待ち続ける真面目なサラリーマンを描く「待ち人の心得」。
この4人の生者が会いたいと願った死者をツナグのが、主人公の渋谷歩美という名の男子高校生。
5つ目の章は、ツナグ・歩美の視点からこの4つのストーリーを描く「使者の心得」。
そして、歩美には両親との悲しい過去があって…。
あなたはもう一度会いたい人はいますか?
本書を読んだ人がまず考えるのが、自分だったら亡くなった誰に会いたいだろうか?ということだと思います。
このチャンスは、一生に一度だけしか与えられていません。
生きている間に、死者に会いたいと願い、それが叶ったらもう二度と他の誰かには会うことはできません。
そして、死者の側も死んだ後で「会いたい」と願ってくれた人に会ってしまえば、他の人が会いたいと願ってくれても、もう他の人には会うことはできないのです。
死者と会うことですっきりと前向きな気持ちになれることもあれば、会わなければよかったと後悔することもあるはずです。
私だったら、誰に会いたいだろう。
母は私より兄に会いたいだろうし、父は亡くなったときの状況を思うと会うにはとても勇気がいります。
人間でなくてもいいのなら、会いたい子がいるのですが…。
そもそも死者に会うこと自体を、私は望むのだろうか…。
私自身は、会うことで後悔することの方が多いような気もします。
しかし、それは今の段階での話で、これから先はわかりません。
両親は少し早くに亡くなっていますが、それ以外の私の周囲にいる人のほとんどがまだ生きているからです。
亡くなってしまっても、どうしてもまた会いたいと思わざるを得ない状況…。
それは、とても辛く苦しいことなのではないかと思うのです。
使者(ツナグ)の葛藤
主人公のツナグである渋谷歩美は、死者と生者をツナグことに葛藤します。
生者と死者を会わせることは、死者に対する冒とくなのではないかと。
死者は生者のためにあるのか…と。
会いたいと思ってくれることをうれしいと思う死者もいれば、自分が死んだことを自覚していない死者にその死を自覚させ、まだこれから生きる生者の後悔や悔悟を晴らすために死者を「使って」よいのか。
しかし、歩美をツナグにしようとしたことには、ある優しい理由があります。
そして、ツナグになることで、歩美はずっと心に持ち続けたしこりをなくすことが出来ます。
歩美は、一見不幸に見えますが、実はとてもあたたかい人々の中で生きてきたことを知るのです。
本書の素晴らしい所は、最後の章「使者の心得」で、この不思議な「奉仕活動」(使者と生者をツナグことで報酬を得ることはなく、依頼者もツナグに報酬を支払うこともない)が、どのように行われ、引き継がれ、ツナグはどんな気持ちで使者と生者をつないでいるのか…を主人公の視点から描かれていくところです。
ある意味、「謎解き」にもなっています。
読後感は「心がしんとする」感じです。
死は、誰にも平等にやってきますが、いつどのような形で死に直面するかはわかりません。
しかし、頭ではわかっていても、誰もが自分が突然死ぬことを心の底では考えていないのだと思います。
まさか、私が…と。
本書を読んで、少しは「自分だっていつ死ぬかなんてわからない」という覚悟を持とうと思いました。
出来るだけ、これからも生きていく人に何かを背負わせるような死に方はしないようにしたいな…と。
最後に
辻村深月著「ツナグ」の感想でした。
初・辻村深月作品でしたが、辻村氏は一見、読みやすいようでさらりと読み進めることが出来ない不思議な魅力のある作家さんだと思いました。
読みながら、何度も行きつ戻りつしながら読み進めました。
一つの言葉に込められた意味が、とても大きいのです。
映画版の「ツナグ」も、キャストがぴったりだなと思いました。
特に、遠藤憲一さんはドンピシャだと思います!
近いうちに映画も観てみたいなと思っています。
おすすめの一冊です。
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