『痣』感想 著者 伊岡瞬|底知れぬ悪意が生む連続殺人

こんにちは。

はるき ゆかです。

昨日の夜、伊岡瞬著「痣」を読み終わりました。

思いもかけない真相が待っている結末に目が離せません。

主人公の真壁刑事と相方の宮下刑事は、伊岡瞬氏の「悪寒」「本性」にも登場します。

ぜひシリーズ化してほしい名コンビです。

「痣」あらすじ

平和な奥多摩分署管内で全裸美女冷凍殺人事件が発生した。被害者の左胸には柳の葉のような印。二週間後に刑事を辞職する真壁修(まかべおさむ)は激しく動揺する。その印は亡き妻にあった痣と酷似していたのだ!何かの予兆?真壁を引き止めるかのように、次々と起きる残虐な事件。妻を殺した犯人は死んだはずなのに、なぜ?俺を挑発するのかー。過去と現在が交差し、戦慄の真相が明らかになる!
徳間文庫「痣」裏表紙より引用

「悪寒」にも登場した真壁刑事の壮絶な過去の物語。

愛する人を殺害される悲しみと苦しみで無気力になっていた真壁刑事に、思わぬ人物が襲いかかる。

刑事と言う仕事

ドラマや映画でよく描かれる刑事という仕事の過酷さが、本書でも描かれています。

ただ読んでいるだけで、こちらまで疲労感に苛まれます。

国民の命を守り、犯罪者を追い詰めることに加えて、「手柄を立てる」ことも刑事として重要なことのようで、同僚との駆け引きなど、全く気の抜けない仕事であることがわかります。

また、典型的な学歴社会である警察組織と階級制度にも悔しい思いをする警察官もいて、どこでどう恨みや嫉妬をかうかもわからないのも、日々どれほどの緊張感の中で仕事をしているのだろうと思います。

尊敬や憧憬と嫉妬や悪意が背中合わせになるこということも描かれており、本書は最後まで緊張感に溢れ、結末に戦慄します。

ミステリー小説は、途中で大まかな犯人像が想像がつく場合が多いですが、本書は本当に驚きの連続です。

残虐な事件の真相がまさかこんなことだったなんて…と、きっと驚愕します。

本書は警察小説であると共に、家族愛についても描かれている小説なのです。

愛する人を失うこと

主人公の真壁刑事は、新婚一年で愛する妻を殺害され、亡くしています。

犯人だとされた男は既に死亡しており、何もかもに無気力になり、二週間後には刑事を辞めることになっています。

とても優秀で粘り強い刑事として名をはせていたのですが、愛する人を失うということはこんなに人を変えてしまうほど辛いものなのだと思い知らされます。

自身が刑事であるというのに、妻を殺害されたことの無念は計り知れません。

本書の中で、事件に挑む真壁刑事を励ますように、亡き妻との「会話」が交わされます。

それは、真壁が妻の朝美ならこう言うだろうという想像上の会話なのですが、それが真壁に勇気と気力を再びよみがえらせます。

そして、真壁自身が自分を鼓舞し、緊張感に溢れている物語の中でも読者を微笑ましい気持ちにさせてくれます。

朝美という女性は、悲しい過去を持っていますが、とてもしっかり者で気丈なタイプの女性だったんだなとその「会話」で知ることが出来ます。

苦しみのあとに

本書の結末は、本当に驚くべきものです。

文庫の320ページ辺りから、全ての真相が明らかになっていくのですが、本当に一切目が離せなくなり、ページをめくる手が止まらなくなります。

真相を知った真壁刑事がどんな気持ちなのかを思うと、同情を禁じえませんが、真相を知ることが出来たからこそ真壁刑事に刑事としての気力を取り戻させることが出来たのかもしれません。

人はどんなことに悪意を持ち怖ろしい行動に移すのかは、平和に暮らしていると全く気がつかないのかもしれません。

そして、本書でもまた、親子関係の悪さがどれほどその人の人生に影響を与えてしまうのかを実感させられます。

だからこそ幸せな家庭を望む人と、そのために自分の不幸を人のせいにする人の違いは何なのでしょうか。

その後の人生で、どのような人に出会うか…なのではないかと本書を読んで感じました。

そして、壮絶な過去を持つ真壁刑事が、ラストシーンで幸せに向かっている予感を感じさせてくれるのも、本書の読後感をとても良いものにしています。

あれだけの苦しみのあとには、幸せが待っていてくれないと人生やってられません。

最後に

伊岡瞬著「痣」の感想でした。

警察小説はあまり読んだことがなかったのですが、とても面白かったです。

真相が明らかになっていく結末には、もうドキドキが止まりませんでした。

ドラマや映画など映像化も期待できる作品です。

どちらかと言うと、男性におすすめの内容ですが、もちろんすべての人に自身を持っておすすめできる一冊です!

以下の記事で、伊岡瞬著「悪寒」と「代償」の感想を書いています。

よろしければ併せてご覧になってみてください。

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