『「鬼畜」の家』感想 著者 石井光太|鬼畜を生み出したものとは

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、石井光太著『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』読み終わりました。

先日、本書の著者である石井光太氏が連載されていた「目黒女児虐待死事件」の記事を読み、同様の幼児虐待死事件を扱われた本書を購入し、読みました。

読んでいる間、正直、とても辛く、やるせない気持ちでいっぱいになりました。
今もどこかで小さな子供たちの悲劇が起こっているのではないかと思うと心が痛みます。

記憶の彼方に追いやられていた3つの事件

みなさんは以下の3つの事件を覚えていますか?

  • 厚木市幼児餓死白骨化事件
  • 下田市嬰児連続殺害事件
  • 足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件

事件発覚当時は、TVのニュースやワイドショーで連日報道されていたはずなのですが、私は足立区の事件以外は、忘却の彼方に追いやられていました。

そのときは、何て酷い親だろうと憤っていたはずなのに、しばらく時間が経つと忘れてしまう…。

それは、それほど多くの児童虐待事件が起こっているということでもありますが、そんな事件に「慣れ」てしまっている自分自身を恥ずかしく思いました。
そして、事件の本質を知らずに、ただ虐待した両親に対する憤りだけで終わってしまっていたことも。

本書では、それぞれの事件について深く掘り下げて書かれています。

何故、そんな鬼畜と呼ばれる親が生まれたのか?
彼、彼女らの生育環境は、筆舌に尽くしがたいほどの悲惨なものだったのです。

厚木市幼児餓死白骨化事件

この事件は、5歳の男の子が、ライフラインが全て止められた部屋で監禁の上、餓死させられた事件です。
そして、遺体は7年半もの間、隠されており、発覚時はミイラ化していたといいます。

被害者は齋藤理玖くん、当時5歳。
両親は齋藤幸裕・愛美佳。
理玖くんを残して、母親の愛美佳は家を出て行き、父親の幸裕が1人で理玖くんを育てることとなります。

電気・ガス・水道が止まっていたと言っても、父親の齋藤幸裕に収入がなかったわけではありません。
トラック運転手としての収入が十分にあったにも関わらず、何故か支払いをせず、そんな環境の中でも、特に齋藤幸裕自身は不便を感じていないようでした。

そもそもその感覚が普通ではないです。

普通なら、そんな環境で小さな子供を育てることが出来るとは思えませんが、齋藤幸裕は、自分はやることはやっていた…と、何故自分が殺人罪で起訴されなければいけないのかがわからないと言います。
事件の発端は愛美佳が育児放棄したことで、責任は母親の愛美佳にもあると…。

子育ては両親で行うものであるため、小さな子供を残して突然家を出た母親にも責任はあるはずですが、母親は自分もDV被害者であると主張…。
そして、愛美佳には大きな借金があるようでした…。

この夫婦も、子供を生むべきではなかったのだと思います。
二人共が、自分たちが小さな命を奪ったとは考えていないようです。

それには、この二人の親、理玖くんにとっての祖父母に大きな問題がありました…。

下田市嬰児連続殺害事件

この事件は、いろんな意味で信じられない事件です。
この事件を起こした高橋愛は、高校二年生のときから10年ほどの間に10人の子供を妊娠しており、生きているのが3人だけ…。

3人は普通に出産していますが、5人は中絶、さらに2人は自宅で産み落としてから殺害。
何故こんな異常なことになってしまうのでしょうか…。
正直、何か脳か心の病気なのではないかと疑われても仕方がない状況だと思います。

「断れない性格」で「自分で抱え込んでしまう性格」であったという高橋愛は、男性からの誘いを「断れなかった」ようです。

しかし「断れない性格」「自分で抱え込んでしまう性格」の人はこの世に五万といます。
普通は、そんな性格でも、本当に出来ないことは引き受けないし断ることも出来ると思いますが、高橋愛は、自分で最後まで責任を持って対処できなくても、抱え込んでしまうタイプのようでした。

「なんとかなるかなぁ…」と。

そして、どうしようもなくなったとき、若い女性なら、普通、母親に相談するでしょう。
ところが、高橋愛にはそれが出来なかったのです。

高橋愛の母親自身が、モンスターだったからです。

2人の嬰児の命を奪ったのは、高橋愛自身ですが、その裏にはそこまで追い込んだ彼女の母親の存在があったと言えます。

足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件

この事件は、私自身も記憶にあった事件です。
容疑者は皆川忍・朋美夫妻。
虐待の被害者は、次男の玲空斗(りくと)くんと玲花(りか)ちゃん。

一家は夫妻と、朋美の連れ子の長女、二人の間に出来た長男、次男の玲空斗くんと次女の玲花ちゃんの6人家族でした。
玲空斗くんは、他の兄弟の食べ物を勝手に食べたり、置いてあるものを食べてしまう癖があったようです。
そして、その癖が玲花ちゃんにも。

その癖が出るたびに、忍は二人に暴力を振るっていました…。
しかし、なかなかその癖が直らなかったという理由で、玲空斗くんをウサギ用のケージの中に入れ、玲花ちゃんは首に犬の首輪を着けてリードでベッドの足に繋いでいたというのです。

父親の忍は当初、派遣社員として働いていましたが、のちに生活保護を受けるようになり、児童手当等を合わせて月に40万円ほどの支給を受けることになります。
そこから一家の暮らしは、突然、毎日外食をしたりするなど贅沢なものとなります。

しかし、連れて行くのは、玲空斗くんと玲花ちゃん以外の子供だけ。

最近、起こった「目黒女児虐待死事件」でも、1人だけ置いて食事や遊びに出掛けることを「しつけ」と称していますが、虐待以外の何物でもない…。

そして、ある日、忍は、ウサギ用ケージの中で騒ぎ出した玲空斗くんの口をタオルで覆い、窒息死させてしまいます。
遺体は近くの荒川に遺棄と供述がありましたが、まだ遺体は発見されていません。

そして、この皆川夫妻のどちらの母親も、またモンスターだったのです。

子供を生むべきでない母親から生まれて

3つの事件、全て、それぞれが罪を犯し、処罰を受けている事件です。

しかし、事件の背景には、容疑者たちの「母親の存在」があります。
そして、その全てが、子供を生むべきではない母親たちばかりです。

母親が、子供が苦しい生活の中、働いて得たお金を取り上げ、育児に手を貸そうともしない…。

もっとまともな母親のもとに生まれていたら、こんな事件が起こることはなかったのに…と思わざるを得ません。
きちんと育てることもできないのに、無計画に子供を作るだけ作って痛めつけられた子供が、また自分の子供を痛めつける…まさに虐待の連鎖。

本書を読んで、親と縁を切ることは、時と場合によっては間違った考えではないと思いました。

鬼畜の家 最後に

本書のエピローグで、NPO法人babyぽけっとについて書かれています。

特別養子縁組や思いがけない妊娠や出産で困っている人を救済する団体です。
この団体の温かさが、本書の悲惨で救いのない3つの事件から、読者を救ってくれます。

子供が欲しくても恵まれない方もたくさんいらっしゃいます。
本書の中の事件を起こした人々のほぼ全員が「なんとかなる」と思ってしまったようですが、子供は勝手になんとかなってくれるものではありません。

特に下田市の事件は、こういった団体の存在を知ってくれていれば…と思わずにはいられません。

とても辛く、悲惨な内容ですが、目を逸らしてはならないことだと思います。