『漁港の肉子ちゃん』感想 著者 西加奈子|きくりんと肉子ちゃん

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日、西加奈子著『漁港の肉子ちゃん』読み終わりました。

ものすごくインパクトのあるタイトル。

内容は、笑えて、泣けて、切なくて…最後は心があたたかさでいっぱいになる物語です。

娘が喜久子で母が菊子

肉子ちゃんはもちろん、本名ではありません。

本当の名前は菊子ですが、太っているからみんなが肉子ちゃんと呼びます。

肉子ちゃんの娘は、きくりん。

きくりんの名前は喜久子。

親子で同じ名前なのは不思議ですが、これには切ない物語が隠されています。

そして、きくりんは、肉子ちゃんとは似ても似つかない美少女です。

きくりんはまだ小学5年生ですが、落ち着いていて大人な面と子供らしさが共存する女の子。

きくりんは、いつも本を読んでいます。

それも、読む本は、とても「大人な本」です。

きくりんは、出来るだけ人に迷惑をかけないように生きていますが、それにも理由があります。

そして、きくりんは、肉子ちゃんのことが大好きですが、最近はちょっと恥ずかしいとも思っています。

肉子ちゃんは、悪い男に何度も騙されていますが、底抜けに明るくてお人よし。

本当にお人よし過ぎて、涙が出るほど。

そんな肉子ちゃんは、今は北の街の漁港にある焼き肉屋「うをがし」で働きながらきくりんを育てています。

たくさんの小さな切ないエピソード

本書の中には、さまざまな登場人物や動物の少し切ないエピソードがあふれています。

そして、みんな、それぞれ、無意識に精一杯生きています。

ペンギンのカンコちゃん。

きくりんの同級生のマリアちゃんたちクラスの女子。

突然変な顔をしてしまう二宮くん。

「うをがし」の店主のサッサン。

漁師のゼンジさん。

ペットショップのオーナーの金子さん。

鍵屋のマキさん。

みんなそれぞれ何かしらの「悲しみ」を持って生きていますが、決して不幸ではありません。

読み進めるうちに切なさがあふれ出す

本書は、読み始めは、クスクスと笑いが止まらず、途中からそれぞれの登場人物が背負うものが見えてくると、ただ「おもしろい」だけではなくなってきます。

そのおもしろさが却って切なくなるような。

そして、読み進めながら疑問に思っていたことが、少しづつ紐解かれてくるとともに、涙があふれてきます。

本書は、この1冊の中で、笑わせてくれて、泣かされて、また笑わせてくれます。

そして、最後は「おめでとう、きくりん」と心の中で肉子ちゃんと一緒につぶやいてしまいます。

私は、悩みの底に沈んでいたとき、自分が世界で一番不幸だと思っていました。

私は、なんてうまくいかない、ついてない人生を生きているんだろうと。

だから、肉子ちゃんのようになれたら…と思います。

肉子ちゃんは自分が不幸だとか、ましてや誰かと比べて自分が不幸だなんて考えてもいません。

肉子ちゃんは、ものすごく太っていて不細工で騙されやすいし、ちょっとおバカだけれど、人を幸せにする力にあふれています。

そんな人になれたら、どれだけ素晴らしい人生だろう。

「漁港の肉子ちゃん」感想 最後に

本書は、肉子ちゃんが大阪弁丸出しなので、大阪弁が基本受け付けないと言う人には向かない小説かもしれません。

しかし、そうでないなら、一度読んでみてください。

おすすめです。

そして、「しずく」に続いて、私は、さらに西加奈子ファンになってしまいました。

さて、次は何を読もうか。

今から楽しみです。

以下の記事で、西加奈子著「しずく」の感想を書いています。
よろしければ合わせてご覧になってみてください。

女ふたりの6つの短編ー『しずく』 著者 西加奈子