こんにちは。
はるき ゆかです。
一昨日、「あなたに謎と幸福を」ハートフルミステリー傑作選、読み終わりました。
ほっこり心があたたかくなる5つのハートフルな短編集です。
本書は「あなたの不幸は蜜の味」イヤミス傑作選と同時に刊行されています。
割り切れないチョコレート 近藤史恵
あらすじ
「ビストロ・パ・マル」は街の小さなフレンチレストラン。
ある日のランチタイム、不穏な空気の一組の男女の客がいた。
その男性客から食後のプチフールのチョコレートが不味いと文句を言われる。
チョコレートは外部の店から仕入れており、確かに質が落ちてきているようだったが…。
感想
男女の痴話げんかなのかと思わせる始まりで、実はそうではなく…。
ショコラティエというのは、とても仕事にプライドを持っている人が多いです。
私自身もお菓子教室に通っていたとき、チョコレート専門の講座を1年半ほど受けたのですが、チョコレートの作り方はとても繊細で難しい。
鶴岡正の気難しそうなところ、すごくよくわかります。
しかし、実は鶴岡の厳しさにはある「優しい」理由がありました。
きっとこのあと優しい結末が待っていると想像できる、読後感がとても素敵な物語です。
鏡の家のアリス 加納朋子
あらすじ
私立探偵・仁木順平の「アリスシリーズ」の中の一作。
今は独立した仁木の息子・航平から、彼女のことで相談を受ける。
彼女の白川由理亜がストーカー被害にあっているというのだ。
順平は助手の安梨沙とともに調査を始めるのだが…。
感想
読み始めの予想を大きく裏切られるストーリー展開が面白いです。
順平と同様に読者も何か違和感を感じながら読み進めることになると思います。
初めに感じたことがそのまま結末となるのは少し内容が浅いなぁ…と思いながら、真実がわかったときに、驚きと共に素晴らしく優しくあたたかい気持ちにさせてくれる作品です。
私自身は、著者の加納朋子氏の作品は今回が初めて。
その他の仁木順平の「アリスシリーズ」をぜひ読んで見たいと思いました。
次の日 矢崎存美
あらすじ
七年ぶりに元我が家に戻ってきた直之。
今、ここに住んでいるのは元妻の月子と娘の穂波である。
直之は月子との復縁を望んで帰って来るのだが、月子は二泊三日の温泉旅行に出かけており、家には娘の穂波だけがいて…。
「渡したいものがある」と直之は車に戻るが、その手には散弾銃があった…。
感想
読み始めから、ちょっと不思議な感じのする作品です。
私が想像したのは、もしかしたら直之は、離婚後にその寂しさから精神を病んでいるのではないかというものでしす。
しかし、それは私が矢崎存美氏の「山崎ぶたぶたシリーズ」を知らなかったせいです。
みなさんは「ぶたぶたシリーズ」をご存じでしょうか?
山崎ぶたぶたについては、ここでは書きませんが、本作を読んだら絶対に「ぶたぶたシリーズ」を読んで見たくなると思います。
しかし、この作品がハートフルミステリー傑作選に選出されたのは、この作品の読後感がとてもあたたかい気持ちにさせてくれるからです。
散弾銃を手にしていても、直之は決して極悪人ではないのです。
タイトルが「次の日」なのもまた切ないです。
君の歌 大崎梢
あらすじ
芳樹は平凡な男子高校生。今日は高校の卒業式だ。
そして、今日は、骨折していた祖母の快気祝いと芳樹と同い年のイトコの卒業祝いを兼ねたホームパーティがある。
ホームパーティの買い物を頼まれていた芳樹は背後に気配を感じ、振り返るとそこにはクラスでも人気の男子・高崎がいた。高崎とは、クラスメイトではあるがほとんど話したこともなかったのだが…。
感想
ある中学校で起こった事件の内容はやや複雑で、何度か行きつ戻りつしながら読んでやっと理解することが出来ました。
しかし、ここを理解するのは重要なのでしっかり読むことをおすすめします。
それにしても、最近の中学生って、こんなに悪質ないじめをするんだなぁとちょっとびっくりもしました。(事件の発端となったいじめのことで事件自体はハートフルです)
読後感は、本当にさわやかであたたかくて、これからの彼らの大学生活を想像すると心が躍ります。
きっと、今まで接点のなかった芳樹と高崎くんは、これから仲良くなっていくと思います。
そして、最後の一行がとても素敵です。
ドルシネアにようこそ 宮部みゆき
あらすじ
篠原伸治は、家業を継ぐために、速記の専門学校に通う地味で平凡な青年。
アルバイトも、速記事務所のテープ起こしのアルバイトをしており、毎日速記の練習づけの日々だった。
アルバイト先の速記事務所は六本木にあった。
バブル景気の頃の東京の六本木は、とても華やかなでおしゃれな若者たちが毎週末、派手な遊びに興じていた。
伸治には縁のないものだったが、ある日、駅の伝言板にちょっとした気晴らしを見つけて…。
感想
バブル景気の頃の東京が舞台となっています。
最近なら登美ヶ丘高校ダンス部のバブリーダンスや平野ノラさんと言えば、イメージができるでしょうか。
本作の重要な小道具である駅の伝言板などは、今では都会では見ることもありません。(調べてみましたが、まだ現存している駅もあるようです)
そして、宮部みゆき氏自身が速記検定の一級を取得されているとのことで、伸治のハードな検定の受験勉強がリアルに描かれています。
宮部氏の作品は、ハートフルな作品が多いイメージですが、この作品も読後感のほっこり感は最高です。
「ドルシネア」の本当の姿にあたたかい気持ちになり、派手に遊ぶ人々の裏側などが名作「火車」に通じるものがあり、短編ですが読みごたえがあります。
本作も、最後の一行に少し涙がじわりときます。
ハートフルミステリー傑作選 最後に
「あなたに謎と幸福を」ハートフルミステリー傑作選の感想でした。
同じミステリーでも、以前に読んだ「あなたの不幸は蜜の味」とは真逆の読後感。
どちらがどうというより、この二冊を併せて読むことでそれぞれの良さがとてもよくわかります。
どうぞ、二冊合わせて読んでみられることをおすすめします。
以下の記事で、「あなたの不幸は蜜の味」イヤミス傑作選の感想を書いています。
よろしければ合わせてご覧になってみてください。