『絶唱』感想 著者 湊かなえ|震災がつないだ4つの物語

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

湊かなえ著『絶唱』、昨日の夕方に読み終えました。

実は、今回は全く前知識なくこの本を読んでしまいました。

今回も前置きがとても長いです。

阪神淡路大震災 私の場合

この物語に登場する女性たちと同様、私も阪神・淡路大震災の被災者です。

あの日は、連休明けの早朝。

いつもはギリギリまで寝てる私が、何故か5時半に目が覚めていて…。

 

我が家の愛犬たちが、パタパタと部屋中を走り回り、まだお散歩の時間には早いのに…?

他の家のお宅のワンちゃんの中には、遠吠えする子もいました。

そして、5時45分(はっきりした時間はあとで知ったこと)。

 

東西に少し揺れたあと、ドン!と下から突き上げるような揺れ。

そのときは、トラックか何かが家にぶつかったのだと思いました。

 

ベッドの向かいに置いた整理ダンスの上の赤いブラウン管テレビが、宙に浮かんだのを見たあと、パチンとスイッチを消したように世界は完全な暗闇となりました。

普通は夜中でも街灯や門灯がついていますし、都市部に住んでいると、どこかしらのお店の明かりが灯っています。

 

その全てが消え、真冬の早朝は漆黒の闇でした。

体の痛みより、この暗闇がとても怖かったのを覚えています。

 

揺れていたのは45秒(これもあとで知ったこと)ほどだったようですが、とても長い時間だったように感じました。

そして、揺れが治まったあとの首から右肩の激痛は、今でもはっきり覚えています。

 

私は、寝ていたベッドと整理ダンスの間に右腕を挟まれていました。

しかし、ベッドのクッションのおかげで、腕はすぐに抜くことが出来ました。

肩の痛みは、おそらく、テレビが肩に直撃したからのようでした。

 

あと10センチの差で、頭にテレビが、それもブラウン管テレビが、落ちてきていた…かもしれないと落ち着いてから考えるとほんの少しの差で命に関わることもあるのだと、生まれて初めて知った瞬間でもありました。
私の友人はTVが頭に当たって、大怪我をしました…。

 

ちょうど父が日帰り出張の日だったので、両親は朝食も済ませ、母が父の荷物の確認をしていたときだったようです。

火も使っていなかったし、両親とも起きていたので、火事にもならず、二人は無傷でした。

 

ちなみに愛犬たちは部屋の隅っこに団子のようにひとかたまりになって、余震のたびに「揺れるものか」と足を踏ん張っていました。

シェルティ3頭、ポメ3頭、みんな無事でした。

 

「ゆかちゃん!ゆかちゃん!大丈夫?!」と呼ぶ両親の声に、痛みで答えることが出来ず、暗闇の中を手探りで両親がいる階下に降りていきました。

そして、暗闇の中、やっと「うん。大丈夫」と、答えたあと、懐中電灯で床を照らしていた父が、「こっちに来たらあかん。床が割れたガラスだらけや」と。

 

家にあった食器のほぼ全部が食器棚から落ちて、割れていました。

食器棚は開き戸だったので、全部勝手に開いていました。

そして、少しづつ夜が明け、辺りが明るくなったとき、肩が剣山で叩かれているような痛みに変わってきており、やっと「ママ、肩痛いわ」と肩の痛みを母に訴えました。

 

パジャマの首元から私の首から肩にかけてを見た母が、「いや!病院行かな!どうしてこんなことになったん!」と何故か怒られながら、歩いて行ける救急病院に父に連れて行ってもらうことに…。

しかし、病院は大怪我をした人でいっぱいでした。

 

病院も大きな被害を受けているようでした。

命に関わるケガをしている人が優先なので、私はそのまま治療を受けずに帰ってきました。

こんなちょっとのケガで治療を受けようとしていた自分をとても恥ずかしく思いました。

 

それから、約15年くらいは、自分では意識していないのに、1月17日になると肩が痛い…ような感覚に襲われ、未だに真っ暗な部屋に入ると揺れてもいないのに部屋が揺れているかのような感覚に襲われます。

フラッシュバックです。

大きな災害は人の人生を変える…良くも悪くも

本書は、4つの物語から出来ています。

トンガ王国に在住の日本人女性・尚美さんを軸として。

4つの物語のそれぞれの主人公は、全員が阪神淡路大震災の被災者です。

 

「どうしてそんな行動をとるの?」と、初めは不思議に思いますが、その主人公たちの行動の理由が1話ごとに紐解かれていきます。

 

そして、女性特有な嫌な部分も描かれていてはいますが、後味の悪い終わり方ではありません。

4つの物語の最後の1つは、おそらく著者の湊かなえさん自身の物語です。

阪神淡路大震災が起こらなければ、湊かなえという作家は誕生していなかったのかも知れません。

 

本書では、私は最後の一行に泣きました。

 

ネタバレ無しで感想を書きたいので、物語についてはこれ以上書きませんが、災害や大きな事故に合うとその人の本心が見えるといいます。

 

阪神淡路大震災がなかったら、この人と結婚していなかった。

阪神淡路大震災がなかったら、この人と結婚していただろう。

阪神淡路大震災がなかったら、私はあの子と親友でいられただろう。

阪神淡路大震災がなかったら、私はあの子と親友になれなかっただろう。

 

そんな話をよく聞きます。

 

しかし、阪神淡路大震災は起こってしまったのです。

最後に

災害や大きな事故が起こると、生き残った人は罪悪感を持つと言います。

その気持は、私にも実感として心にずっと残っていくと思います。

 

でも、人は生きていかなければならない。

 

阪神淡路大震災の被災者の方には少し辛い内容ではありますが、読後感は良いものなので、読み終わった今の私自身の気持ちも、あの日のことを思い出して、辛くなるということはありませんでした。

私の場合は、記憶が曖昧な部分も大きいのかも知れませんが。

 

そして、死ぬまでに一度はトンガへ旅したいなと思わせてくれる小説です。