『ぶたぶた』感想 著者 矢野存美|あなたの正体は?

こんにちは。

はるき ゆかです。

見た目は可愛いぶたのぬいぐるみなのに、中身は中年のおじさん。

優しくて仕事が出来て、不思議なぶたのぬいぐるみ山崎ぶたぶたの物語。

一体、あなたは何者なの?

「ぶたぶた」 あらすじ

街なかをピンク色をしたぶたのぬいぐるみが歩き、喋り、食事をしている。おまけに仕事は優秀。彼の名前は、山崎ぶたぶた。そう、彼は生きているのです。ある時は家政夫、またある時はフランス料理の料理人、そしてタクシー運転手の時も。そんな彼と触れ合ったことで、戸惑いながらも、変化する人たちの姿を描く、ハート・ウォーミング・ノベル。大人気《ぶたぶた》シリーズの原点、登場!!

徳間文庫「ぶたぶた」裏表紙より引用

山崎ぶたぶたは、いろんな意味で、とにかく万能選手。

バレーボールくらいの大きさのピンクの可愛いぶたのぬいぐるみです。

そんな彼は、ピンクのぶたのぬいぐるみの姿のまま、街に自然に溶け込んでいるのです。

初恋

あらすじ

ぶたぶたは、ベビーシッター。

依頼主のお母さんのひざ下くらいまでの大きさですが、その日は体調を崩した部下の代わりにそのお家にやってきた。

ぶたぶたは、街に溶け込み、着実に仕事もこなしていくスーパー家政夫だった。

感想

突然、頼んでいたベビーシッターが、ぶたのぬいぐるみだったと知ったら、どうでしょう?

何かの冗談?

今なら、AIか何か?と思ってしまうかもしれません。

依頼主のお母さんは、仕事が忙しすぎて幻を見ているのでしょうか…。

ぶたぶたの仕事は完璧なので、心配することはないのですが、やはりどう見てもぶたのぬいぐるみ…。

そして、かわいい。

最高の贈り物

あらすじ

ぶたぶたは、おもちゃ屋さんの店員。

名門女子高に通う小出恵美は、初めて学校をさぼった。

友達とつるまずに原宿に来たのは初めてだった。

実は、美恵は両親とあまりうまくいっていなかった…。

感想

思春期の女子高生・恵美が、売り物だと思って、思わず万引きしてしまったのが、山崎ぶたぶたでした。

しかし、ぶたぶたは、売り物ではなく、このおもちゃ屋さんの店員だったのです。

ぶたぶたは、ラッピングも完璧にできてしまい、同僚からも信頼の厚い店員さんなのです。

そして、そのおもちゃ屋さんは、恵美の父親の職場でもありました。

ぶたぶたと知り合ったことで、恵美に心の変化が訪れて…。

しらふの客

あらすじ

ぶたぶたは、タクシー運転手。

石田良は、ある日、深夜まで仕事をした帰りにタクシーを探していた。

そこにやってきたのがぶたぶたのタクシー。

翌日も、石田はぶたぶたのタクシーに乗ることになり、さらにDV被害にあっている女性と相乗りすることに…。

感想

ぶたぶたは、小さいけれど、運転も出来ます。

そして、とても良心的なタクシー運転手なのです。

でも、気味悪がって、あまり乗ってくれるしらふのお客さんはいないのです。

しかし、ぶたぶたと触れ合った人たちは、みな幸せになっていきます。

仕事に忙殺されていた石田もまた、家族との時間を持つ心の余裕を取り戻します。

ストレンジ ガーデン

あらすじ

ぶたぶたは、フレンチの腕利きシェフ。

友部香織は、そんなぶたぶたシェフを車ではねてしまう。

ぶたぶたは、フランスの有名レストランから引き抜きの話があって…。

感想

今回は、ぶたぶたは、その辺りでは有名なフレンチレストラン「セルフィーユ」のシェフです。

とても腕利きのシェフで、フランスの有名レストランから引き抜きの話があるのです。

でも、ぶたぶたは、本当にぶたのぬいぐるみなのです。

ぶたぶたは、香織の車に轢かれたことで、料理人としては致命的な状態に陥ってしまい…。

ぶたぶたは、本当にさまざまな世界で一流なのです。

銀色のプール

あらすじ

ぶたぶたは、旅人。

小学3年生の沢木毅の家の近所には大きな遊園地がある。

夏は花火もあったり、プールに人がたくさんくるが、冬は少し閑散としている。

冬のプールはどうなっているんだろう?という好奇心からのぞいてみると、そこにはぶたのぬいぐるみがいた。

両親にあまり会えない毅は、家出をすると言い出すが、家出にはしきたりがあるとぶたぶたに言われて…。

感想

今回のぶたぶたは、さすらいの旅人です。

ちょっとかっこいいのです。

小学生の子たちには、彼らなりに考えることがあって、ちょっと家出をしてみたくなったようです。

ぶたぶたは、誰の目から見ても、ぶたのぬいぐるみなのでしょうか。

あらゆるシーンにうまく溶け込む山崎ぶたぶたの正体は一体何者なのでしょうか。

そんなこと、もう考える必要はないのかもしれません。

追う者、追われるもの

あらすじ

ぶたぶたは、平凡なサラリーマン。ある日、私立探偵が依頼されたのが、ぶたぶたの日々の行動を調べてほしいというものだった。

ぶたぶたの日々は、一般的なサラリーマンと同じようなとても平和なものだった。

しかし、私立探偵の「私」からすると、それはとても奇妙な依頼だった。

何といっても、相手はぶたのぬいぐるみなのだから。

感想

今回のぶたぶたは、普通の平凡なサラリーマンです。

しかし、とても仕事ができるサラリーマンのようです。

彼の行動を尾行してほしいと依頼してきたのは…。

ぶたぶたは、パソコンで資料を作ったり、営業活動をしたり、プレゼンをしたり…お酒を飲んで酔っ払ったり。

本当に普通のサラリーマンのおっさんのようです。

ぶたぶたは、完全に街に、職場に、取引相手に、溶け込んでいます。

誰もそれを不思議に思わないほど、山崎ぶたぶたは普通のサラリーマンでした。

殺られ屋

あらすじ

ぶたぶたは、「殺られ屋」。

人を殺したいと、本気で考えてしまっている三倉という男がいた。

その殺意を抑えきれず、酒におぼれる日々。

そんなときに、電信柱に貼ってあった「殺したいほど憎んでいる人がいる方、お電話ください 殺られ屋 山崎」というポスターを見つけ、三倉は酔った勢いで電話をかけてしまう…。

感想

ぶたぶたは、ぬいぐるみなので、死なないのです。

そのため、殺したいと思いっている人に殺させても、死なないのです。

三倉は、ぶたぶたに依頼し実行しますが、とても後悔します。

その後、三倉は心を入れ替え、結婚して家族も出来ます。

しかし、20年の時が流れて、三倉は幸せな生活を手に入れていたはずなのですが、今また厳しい現実の前に立たされていて、再度、ぶたぶたに「殺られ屋」を依頼してきたのでした。

ぶたぶたは、二度、三倉を救うのです。

ただいま

あらすじ

ある台風の夜、ぶたぶたは飛ばされて永井家にたどり着く。

永井家は、両親と娘の摩耶子、そして兄の晋の4人家族。

しかし、晋は行方不明だった。

特に何かがあったようにも感じない家族だったが、晋は突然蒸発してしまい、家族はそれをきっかけに心がバラバラになりかけていて…。

感想

ぶたぶたは、台風の日に飛ばされて、記憶喪失になっているようです。

自分が初めからぬいぐるみだったのか、なぜ料理が作れるのか、自分でもわからないのです。

ぶたぶたは、永井家の人々の心をつなぎとめ、癒していきます。

家族が突然いなくなることほど、家族を戸惑わせることはありません。

そこに現れたぶたぶた。

そして、ぶたぶたは摩耶子からある言葉いってほしいと言われます。

桜色を探しに

あらすじ

東京にはぶたのぬいぐるみが現れるという怪しげな雑誌の記事を見つけた「私」。

春になったら、東京の女子大に通うことが決まっている。

この記事を書いた人を教えてほしいとその雑誌社に電話をかけ、フリーライターと名乗る男性を紹介される。

そのフリーライター沢木によると、ぶたのぬいぐるみは、立ち食いそばを食べたり、駅の売店で牛乳を飲んだりしているらしい。

東京の生活に慣れ始めた頃、「私」は、ある日、ピンクのぶたのぬいぐるみが車に轢かれるのを見て…。

さらに、ぶたのぬいぐるみはフレンチのシェフだということもわかり…。

感想

本書の最終話「桜色を探しに」では、それまでの物語のぶたぶたの様子が描かれています。

そして、最後にフリーライターの沢木さんや女子大生「私」の正体もわかります。

ぶたぶたは、あまりにも東京の街に溶け込んでいるので、少し不思議な気持ちになると同時に、ぶたぶたに会える人にはある特徴があることにも気づきます。

最終話のラストシーンもとても素敵です。

私も、ぶたぶたに会いたいです。

最後に

矢崎存美著「ぶたぶた」の感想でした。

右耳が後ろに倒れたピンクの可愛いぬいぐるみで、仕事人としても素晴らしい能力を持ち、心もあたたかい山崎ぶたぶた。

ぶたぶたはシリーズ化されており、本書はその原点となる作品のようです。

私と山崎ぶたぶたとの出会いは、『あなたに謎と幸福を』の一編でした。

続刊も続けて読んでいきたい、気持ちがあたたかくなるおすすめの一冊です。