『ななつのこ』感想 著者 加納朋子|結末に素晴らしく癒される

こんにちは。

はるき ゆかです。

本書「ななつのこ」は、本書に出てくる『ななつのこ』という短編集と共に物語が展開していきます。

著者の加納朋子氏の博識なところと優しいストーリーにとても感動します。

ななつのこ あらすじ

表紙に惹かれて手にした『ななつのこ』にぞっこん惚れ込んだ駒子は、ファンレターを書こうと思い立つ。わが町のトピック〈スイカジュース事件〉をそこはかとなく綴ったところ、意外にも作家本人から返事が。しかも、例の事件に客観的な光を当て、ものの見事に実像を浮かぶ上がらせる内容だったーー。こうして始まった手紙の往復が、駒子の賑わしい毎日に新たな彩を添えて行く。
[引用元]創元推理文庫「ななつのこ」裏表紙より

第3回鮎川哲也賞受賞作品です。

主人公は短大生の入江駒子。

『ななつのこ』の主人公は「はやて」という男の子で、「あやめさん」という女性にはやての周囲で起こった出来事の謎を解いてもらう…という物語です。

はやては少し気の弱い男の子。

あやめさんはサナトリウムで療養している若く美しい女性です。

本書の主人公・駒子は『ななつのこ』著者佐伯綾乃へ、駒子の周囲で起こる小さな事件について手紙を書き、その謎を佐伯綾乃が鮮やかに説いてくれるのでした。

言うなれば、はやてにとってのあやめさんが、駒子にとっての佐伯綾乃なのです。

スイカジュースの涙

あらすじ

駒子が、本屋さんで「ななつのこ」というタイトルの短編集を手に取ったのはまずその表紙に惹かれたからだった。

ある日、駒子の友人の愛ちゃんのお家の愛犬エディが逃げてしまう。

いつも父から溺愛されているエディに愛ちゃんの弟がやきもちをやいて、わざと逃がしてしまったのだ。

エディは、どこを探しても見つからない。

駒子は、この「事件」を佐伯綾乃に手紙に書いて送ると返事が来て…。

感想

ここでは「スイカお化け」という物語と共に本書の物語が展開していきます。

はやては、自分の家で育てているスイカ畑からスイカを盗まれることを両親が話しているのを聞いてしまいます。

そして、はやては、スイカ畑の番をすることになって…。

この物語になぞらえて、佐伯綾乃は愛ちゃんの愛犬エディの行方を鮮やかに推理してくれるのでした。

モヤイの鼠

あらすじ

駒子は、高校時代の友人・たまちゃんと尾崎炎(おざきえん)という画家の作品展に向かう。

二人は、高校時代に美術部に籍を置いていたのだ。

その途中で街にあるモアイ像にそっくりな「モヤイ像」に鼠の巣を発見する。

そのときに駒子が思い出したのが短編集『ななつのこ』の中の「金色鼠」だった。

展示会会場に到着した二人は「悠久の時間」という100号サイズの大作をみて感動していた。

感動した駒子はこの絵に思わず触れてしまい…。

感想

ここでもある事件が起こります。

駒子が感動した絵「悠久の時間」に手を触れてしまい、絵の一部である絵の具のはねを剥がしてしまうのです。

絵はとても高額で、既に売却済みとなっていました。

一旦はその場を離れますが、罪悪感に苛まれる駒子はどうしても謝りに行きたいと言い、たまちゃんと一緒に謝りに行く。

しかし、さきほど見た絵と何かが違っていて…。

この事件についても、駒子は佐伯綾乃に手紙を出し、謎を解いてもらうのでした。

一枚の写真

あらすじ

駒子は短大で「図書館概論」の授業中に、課外授業で行った横浜の近代文学館で撮った写真を、友人のふみさんから渡される。

その写真を自分のアルバムに整理しようとして、小学生時代の写真が一枚だけなくなっていることに気づく。

アルバムはコーナーアルバムという三角のポケット式のシールに挟み込むタイプのものだ。

ここでまた駒子が思い出すのは『ななつのこ』の中の短編「空の青」だった。

はやての夏休みの図工の宿題「わたしたちの村」の絵を描いた時の話。

みんなの絵の具の青だけがなくなっていて…。

感想

とても、優しい心温まる素敵な物語です。

そして、駒子のなくなっていた写真は、ある日戻ってきます。

住所のない封書が駒子宛てに送られてきます。

送り主は、小学生時代に転校していった橋本一美という、小学六年生のときに1年間だけ同じクラスだった子でした。

このときにも、駒子は佐伯綾乃に手紙を書きます。

そして、佐伯綾乃はその謎を解き明かしてくれるのです。

駒子の写真を借りていた橋本一美にはある切ない理由があってしたことだったのです。

バス・ストップ

あらすじ

駒子は、4月から車の免許を取るために自動車教習所に通うことになった。

しかし、駒子は自分で自分のことを車の運転には向いていないのではないかと感じていた。

そのため、教習所通いにも熱が入らない。

教習所にはバスで通っているのだが、バス停の前は日本人が入れない「米軍住宅地区」である。

その前には金網があり、つつじが植えられている。

その金網とつつじの間に優し気な老婦人と小さな女の子がいて、何かをしている…。

このときに駒子が思い出したのが『ななつのこ』の中の「水色の蝶」という短編だった。

感想

駒子は、自動車教習所通いを再開します。

それはある雨の日のことでした。

ここで駒子は、ある青年と出会います。

それから数日後、駒子がまた教習所のバス停でバスを待っていると、目の前に美しい花々が咲いていることに気づきます。

マリーゴールド、ペチュニア、マーガレットなど色とりどりの花々です。

金網には朝顔が巻き付いています。

そして、優しそうな老婦人とおそらくその孫娘の二人の少し奇妙な行動を、駒子はまた佐伯綾乃に手紙を書くのでした。

佐伯綾乃は、またその老婦人と孫娘に行動の意味を駒子に解き明かしてくれるのです。

一万二千年後のヴェガ

あらすじ

夏休みのある日、駒子はデパートの屋上のプラネタリウムにいた。

デパートの屋上には、子供用の遊具がたくさんあって、ビニール製の大きな恐竜もあった。

プラネタリウムの解説の声はとても優しく、星空のロマンに酔いしれる駒子。

そして、一万二千年後の空から八千年後、五千年後の空へと移っていくプラネタリウム。

そんな駒子に、ある青年が声を掛けてきて…。

感想

自動車教習所のバス停で出会った青年・瀬尾と駒子の再会のシーンがプラネタリウムというのは、とてもロマンチックです。

そして、ここで起こる事件は、ビニール製の恐竜がある保育園に突然現れたというものです。

この恐竜は、デパートの屋上にあったあの恐竜でした。

なぜ、デパートの屋上にあった恐竜が突然保育園に現れたのか?

そして、また駒子は佐伯綾乃にこの出来事を手紙に書きます。

佐伯綾乃は、今回もまた、その謎を解き明かしてくれます。

白いタンポポ

あらすじ

駒子は、ふみさんに誘われ、小学生のサマーキャンプのボランティアをすることになった。

低学年の子供たちを小学校の校庭で一泊させるというものだった。

駒子は、そのキャンプに来ていた真雪という大人しくて華奢な少女に出会う。

そして、また駒子は真雪に『ななつのこ』の中のお話「明日咲く花」を聞かせるのだが、あまり興味を抱いていないように見えて…。

感想

真雪ちゃんの気持ちが、私にはすごくよくわかります。

私自身も、ちょっと真雪ちゃんのような子供だったからです。

しかし、私自身がそうであったように、真雪ちゃんにとって自分は「普通」だと思っていました。

おしゃべりしなくても、先生に懐いていなくても、それは先生が嫌いだからではなく、自分にとっては普通でしたし、いろんなことを感じてもいたのです。

私も小学生の頃、よく先生に気を使われていた記憶がありますが、子供心に「なぜ私はこんなに気を使われているのだろう?」と思っていました。

そして、駒子は真雪ちゃんのことを「明日咲く花」を通して理解することが出来るのでした。

駒子は、このことについても、佐伯綾乃に出紙を出し、素敵な返信をもらいます。

ななつのこ

あらすじ

『ななつのこ』の中の「ななつのこ」を読んで、駒子は、「七つの子」という童謡を思い出していた。

そんな駒子は、虫歯が痛くて歯医者に通うことになる。

そして、治療の帰りに本屋に立ち寄ると、また瀬尾に出会う。

彼は、その本屋でもバイトしているのだった。

駒子は瀬尾にお茶に誘われ、プラネタリウムのバイトがもうすぐ終わるので、また来ないかと誘われて…。

感想

最後の物語の結末に、読者は誰もが驚くと思います。

とても、素敵な結末なので、感想では多くを語りませんが、ほっこりあたたかな気持ちにさせてくれます。

『ななつのこ』という素敵な表紙の短編集と共に物語が紡がれていく「ななつのこ」。

聡明で可愛い駒子に癒されます。

そして、読み応えもたっぷりです!

最後に

加納朋子著「ななつのこ」の感想でした。

少し、ネタバレ気味ですが、どうぞご自身で読んで見られることをおすすめします。

とても、癒され楽しめる小説です。

加納朋子氏の表現力の素晴らしさに感嘆します。

おすすめの一冊です!