「三つの名を持つ犬」感想 著者 近藤史恵|温かな小さな命のために

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、近藤史恵著「三つの名を持つ犬」読み終わりました。

犬が人に与えてくれるぬくもり。

それは、犬を愛する人にとって、何ものにも代えがたく、愛おしいものです。

「三つの名を持つ犬」 あらすじ

犬を撫で、その温かさに触れることで、ようやく少し救われる。売れないモデルの草間都は、愛犬エルとの暮らしをブログを綴ることで、心が充たされるだけでなく、生活の糧も得ていた。だが、ある夜エルは死んでしまう。追い込まれた都は、エルそっくりの飼い犬を、思わず家に連れ帰ってしまった。ちいさな罪のはずが、それはやがて思いがけない事件に……切なく胸を打つ傑作ミステリー!

[引用元]徳間文庫「三つの名を持つ犬」裏表紙

物語は、二人の人物の視点から描かれていきます。

エルの飼い主の草間都とオレオレ詐欺の「出し子」として自堕落な生活をしている江口正道の二人。

この二人が出会ったときに、都の思惑は思わぬ方向に向かっていきます。

犬を誘拐して

売れないモデルの草間都は、家の近くの公園で行われた保護犬の譲渡会で、白い小さな子犬を譲り受けます。

名前をエルと名付けました。

エルを家に連れて帰る都は、とても幸せな気持ちになりました。

小さくてあたたかい小さな命を、しっかり胸に抱きしめて家に急ぐ都の気持ちは、子犬をお家に迎えたことがある方なら誰にもわかる気持ちだと思います。

エルを家に迎えて以来、何か嫌なことがあったり、仕事がうまくいかないときも、エルは都にとって大きな心の支えとなりました。

白い子犬

都は、何気なくエルとの日常をブログに記し始めます。

そのブログが思っていた以上に人気を博し、それから都は人気ブロガーの仲間入りを果たします。

都の美しい容姿と共に、エルの愛らしさが人気を呼んだようです。

 

このブログの人気のおかげで、都は雑誌に掲載され、ドッグフードのイベントの仕事やウェブや雑誌のライターとしてコラム連載の仕事を受けることが多くなりました。

モデルの仕事以上の収入になり、生活はエルと共に順調に進んでいくかに見えました…。

 

都には付き合っている男性がいます。

その男性には、妻子がありました。

その不倫相手の橋本は、イベント会社の社長をしていて、犬が嫌いなのです。

ある日、「行かないで」とすがるエルを置いて、都は橋本とのデートに出かけます。

そのときに、悲痛な事故が起こってしまうのです。

 

エルは、あまりにもあっけなく命を落としてしまいます。

都は、今やエルなしでは生きていけなくなっています。

心の支えとしてはもちろん、エルがいるからこそ都に仕事の依頼があり、生活していけるのです。

このとき、エルが亡くなったことを正直に言えばよかったのですが、焦った都はエルが亡くなったことを隠して、その身代わりを見つけようとするのです。

エルは、ミックス犬で、特徴的な被毛を持っていたので、そう簡単に見つかるはずはないのですが、偶然そっくりな犬を見つけて…。

都は、その犬を誘拐してしまいます。

どん底の生活から

江口正道は、大学在学中に両親を事故で亡くします。

それまでの江口の人生は、とても平凡なものでした。

普通に大学を卒業して、サラリーマンになって…と考えていたのですが、両親の死が事故死であったため、生命保険金やまとまった金額のお金を遺産として相続します。

そのため、大学卒業後、就職をせず、しばらく遊んで暮らすことにしてしまったのです。

 

ある日、ネットサーフィンをしていると「FXで月五十万円を稼ぐ方法」というタイトルのメールを受け取った江口。

しばらくは、江口は、資金を持っていたので、少しづつお金を増やしていくことが出来ました。

江口は、「これなら、一生就職しなくても生きていけるだろう」と考えてしまい…。

そして、その後はよくある話で、彼女と海外旅行に行っている間に大きな為替の変動があり、一千万円近くを失ってしまいます。

焦った江口はさらに頻繁に売り買いを繰り返しますが、それもうまくいかず、気づいたときには業者から取引を打ち切られ、闇金から借り入れた借金だけが残りました。

 

大学を卒業してから数年経っている江口は、就職もうまく行かず、今は大学の友人の篤に誘われ、オレオレ詐欺の片棒を担いでいるのです。

さらに、江口の「仕事」は、被害者の口座からお金を引き出す「出し子」という、オレオレ詐欺でも末端の仕事です。

希望ある未来へ

都と江口は、エルの身代わりに誘拐してきた「ササミ」と名付けられたナナを通して出会います。

タイトルの「三つの名を持つ犬」とは、人前では『エル』と呼ばれ、誘拐してきた都が名付けた『ササミ』(鶏肉のササミが大好物だったから)という名前、そして、本当の名前の『ナナ』です。

 

都は、ひとつの嘘から様々な思惑を持った人々と共に、転落していくのですが、ひとつの信念を持っていました。

そして、二人が関わることによって、江口は、美しい都に淡い恋心を抱き始めます。

 

しかし、人間が様々な失敗や過ちを犯していくうちにも、犬はとても素直に自分にとって大切な人を愛し、待ち続けます。

そして、都も江口も、ナナを心から大切に思い、ナナの幸せのために動きます。

ナナは、犬の誘拐だけでなく、もっと大きな過ちを犯した都を、ずっと待ち続けてくれると思います。

犬とは、そういうものなのです。

 

犬は、飼い主を誰よりも信じ、愛し、とても純粋に大切に思ってくれます。

こんなに清らかで素直な犬の前で、人間の嘘や欲望や利己主義な振る舞いはあまりにも醜悪で情けないものです。

そして、犬が人間に与えてくれる安らぎや癒し、心の支えとなるあたたかな存在感は、他に代えがたいものであることを、本書は再確認させてくれるのです。

最後に

近藤史恵著「三つの名を持つ犬」の感想でした。

本書は、傑作ミステリー小説でもあり、切なく感動的な動物小説でもあります。

愛犬家の方にはもちろん、全ての人におすすめの一冊です!