『きりこについて』感想 著者 西加奈子|いちばん大切なこと

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、西加奈子著「きりこについて」読み終わりました。

前半はいつもの西さん独特の関西弁での軽妙洒脱な人物描写などに笑わされ、後半は深く考えさせられます。

きりこは、人生において最も大切なことが何かを教えてくれます。

「きりこについて」あらすじ

小学校の体育館裏で、きりこが見つけた黒猫ラムセス2世はとても賢くて、大きくなるにつれ人の言葉を覚えていった。

両親の愛情を浴びて育ったきりこだったけれど、5年生の時、好きな男の子に「ぶす」と言われ、強いショックを受ける。

悩んでひきこもる日々。

やがて、きりこはラムセス2世に励まされ、外に出る決心をする。

きりこが見つけた世の中でいちばん大切なこととは?

文庫本の背表紙より引用しました。

親の言う「可愛い」と世間で言う「可愛い」の間には

当たり前のことなのかもしれませんが、親は自分の子供を「可愛い」と思って育てれるます。

「可愛い」「可愛い」と何度も言ってくれるのが親です。

そして、心底「可愛い」と思ってくれているのも親です。

しかし、その「可愛い」と世間で言う「可愛い」の意味が違っていることを思い知らされるのは、人が大人になり始める頃です。

 

きりこは「ぶす」である。

 

本書の一行目です。

しかし、きりこは自分が「ぶす」だなどと微塵も思っていません。

世界で一番信頼している両親から、毎日「可愛い」「可愛い」と言われて育てられているから。

本書では、小さな子供の頃は、大人で言うところの「ぐだぐだに酔っぱらっている状態」が続いているようなものだとされています。

酔っぱらっている大人は誰かの言った「ぼくのおしりはおでこです」で永遠に笑っていられるし、子供なら「う〇ことおれとビル」などという言葉でずっと笑っている。

確かに。

私はお酒は飲めないのですが、飲みの席でよく見られる光景ですし、子供って本当にそう。

そのため、きりこ本人が「うち、可愛いやろ?」と言えば、子供はいつも「酔った」頭でいるので、そうなのだと思ってしまうのです。

それが、小学校の高学年あたりになってくるとその「酔いが醒めてくる」のです。

 

これは、私自身も経験があります。

私自身はいつも「その他大勢」でしたが、小学生の頃にみんなに「可愛い」と言われていたCちゃんという子がいました。

私もCちゃんは可愛いと思っていましたが、実はそうではなかったようなのです。

Cちゃんは押しが強く、とても物をはっきり言ういわゆる「クラスでも目立つタイプ」でした。

それが、中学生になるとCちゃんは本当に可愛いのか?と周囲が気づき始め、高校生になるとさらに普通だよねとなり、大学生のときには「その他大勢」にも入らなくなっていました。

Cちゃんは、きりこのように引きこもりになるほどではありませんでしたが、「毎日がつまらない」と言うようになりました。

女子はなぜこうも人生を美人かそうでないかで決められてしまうのか…。

きりこはぶす

きりこには、こうた君という好きな男の子がいました。

こうた君は足が速く、ハンサムでぶっきらぼうな不良というモテ要素満載の男子でした。

きりこは、こうた君にラブレターを出します。

そして、こうた君の下駄箱にラブレターを入れるのですが、他の男子が先に見つけてしまい、教室にラブレターを張り出されてしまうのです。

大人になる寸前の子供のなんと残酷なことか。

そのこうた君が言い放ったのは「やめてくれや。あんなぶす」(本書でぶすということはいつも太字です)

その一言で、酔っている状態だったクラスの子たちは一気に覚醒するのです。

いつも、みんなが感じていたもやもやした感じがすっきりした瞬間でした。

 

きりこはぶす

 

しかし、まだきりこには自分がぶすだということが理解できません。

それはそうです。

ずっとずっとずっと12年間「可愛い」と言われ続けてきたのですから。

自らも「うち、可愛いやろ?」と自己申告し、周囲の友達も「可愛い」と酔った頭で答えていたのです。

きりこは眠る

きりこは自分がぶすであることを気づかされてから、少し心を病みます。

引きこもり、食欲がなくなり、昼夜逆転、さらには眠ってばかりいるようになってしまいます。

まるで猫のように。

そして、まさに猫であるラムセス2世は、ずっとそんなきりこの側にいます。

人は受け入れられない現実を目の当たりにすると、眠りの世界に入ってしまうことがあるようです。

睡眠障害。

きりこの両親は、心底きりこを愛していました。

そんなただ寝てばかりいて学校にも行けないきりこを、ただきりこがいてくれるだけで私たちは幸せなのだと、新興宗教にはまるご近所の元田さんに告げます。

元田さんも、なかなかに辛い人生を歩んできた人で、今は新興宗教にはまっているのですが…。

 

そして、きりこはその眠りの中で予知夢を見るようになります。

その夢の中で見た人を助けるために、きりこは外に出る決意をします。

きりこの気づき

先にも書いた通り、きりこはこうた君が好きでした。

ハンサムで運動神経が良くて不良っぽいこうた君。

とてもモテる男子だったのですが、こうた君がモテていたのは大人になるまででした。

こうた君の人生も、成功者のそれとは真逆のものだと言えるかもしれません。

ある事件をきっかけに転落人生を歩んでいくことになります。

 

大人になった男子は、「容れ物」だけが良くてもモテなくなるのは周知のとおり。

そこできりこは気づきます。

自分自身もこうた君の「容れ物」だけを好きだったではないかと。

最後にきりこは、こう叫びます!

「うちは、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな」

「今まで、うちが経験してきたうちの人生すべてで、うち、なんやな!」

猫の世界

猫の世界で、きりこは尊敬されとても尊重されています。

人間よりもずっと本質を捉えている猫の世界。

いつも、ただ寝てばかりいるようで、猫は全てを知っているのです。

最後に

西加奈子著「きりこについて」の感想でした。

これほどまでに、前半と後半で読者の気持ちを右に左に揺り動かす小説は初めてでした。

後半は読んでいるのが辛くなりますが、ラストに大きな救いがあります。

「世界は肉球より丸い」

文章が読みやすいのに、内容は深い素晴らしい作品です。

おすすめです!