「潔白」読書感想 著者 青木俊|再審請求中の死刑執行

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、青木俊著「潔白」を読み終わりました。

誰もが冤罪の闇に落とされる可能性があるのだ思うと、とても恐怖を感じました。

司法には、プライドや威信を捨てて、真実だけを追求してほしいと思いました。

「潔白」 あらすじ

30年前に小樽で発生した母娘惨殺事件。死刑がすでに執行済みにもかかわらず、被告の娘が再審を請求した。娘の主張が認められれば、国家は無実の人間を死刑台に追いやったことになる。司法の威信を賭けて再審潰しにかかる検察と、ただひとつの真実を証明しようと奔走する娘と弁護団。「権力vs.個人」の攻防を迫真のリアリティで描く骨太ミステリ小説。

[引用元]幻冬舎文庫「潔白」裏表紙より

フィクションですが、ノンフィクションのようにも読める小説です。

舞台は、北海道・小樽です。

登場人物

三村ひかり
三村孝雄の娘。死刑執行後に父の再審請求を行う。
三村孝雄
野村鈴子・優子母娘殺害の犯人とされ、死刑を執行された。
高瀬洋平
三村事件の担当検事。
森田逸郎
三村事件の担当弁護士。
生井響子
元科警研主任研究員。MCT118鑑定の結果を捏造?
田中義一
元科警研研究員。現在大学准教授。MCT118鑑定に否定的。
立川夏了
神父。教誨師。ひかりの良き相談相手。
野村鈴子
三村事件の被害者。同じく被害者・優子の母。
江藤巧
東日新聞北海道支社編集委員。三村事件の冤罪を晴らすための協力者。北海道大学出身。
葦沢久志
『月刊札幌』記者であり、森田事務所の調査員。

再審請求中の死刑執行

野村鈴子とその娘・優子が殺害された日、三村孝雄は娘のひかりと一緒にいました。

しかし、身内の、それも子供のひかりの証言は証拠として採用されることはありません。

さらに、捏造された目撃証言によって、三村は死刑が確定し、たった二年後に死刑が執行されてしまいます。

それも、再審請求中に。

 

最近では再審請求が、死刑囚の延命のために悪用されることが多くなった言われています。

それは再審請求中には刑は執行されないからです。

再審請求の意味

日本では死刑反対派も多いですが、現在でも死刑は廃止されていません。

そのため、執行までにはある程度の時間が必要です。

もし、無実の人間を死刑台に送ることになってしまったら…。

考えただけで怖ろしい話です。

 

三村孝雄は、なぜ再審請求中にも関わらず、死刑を執行されてしまったのでしょうか。

MCT118鑑定は欠陥鑑定?

MCT118鑑定とは、DNA鑑定の一つの種類で、今では全く採用されていない鑑定法です。

日本以外ではどこの国も採用していません。

この鑑定のせいで起こった冤罪事件が足利事件です。

足利事件

足利事件は、現実に起こった冤罪事件です。

足利事件とは、1990年5月12日にパチンコ店の駐車場から一人の少女が行方不明になり、翌日の13日に渡良瀬川河川敷で遺体となって発見された事件です。

事件とは全く無関係な菅家利和氏が犯人とされ、無期懲役が確定しましたが、そのときに使われたDNA鑑定がMCT118法でした。

その後、2009年に再鑑定した結果、DNA型は不一致、無罪であることが判明。

菅家氏は、冤罪被害者だったわけです。

生井響子の意地

足利事件で、MCT118法が欠陥鑑定であることがわかったあとでも、主任研究員だった生井響子はMCT118が間違いだったことを認めようとはしませんでした。

生井響子と共にMCT118の技官だった田中義一の証言では、何度やってもうまく行かなかったMCT118法が、ある朝、「一致したわよ」という生井の一言で、三村孝雄は犯人とされてしまいます。

また、鑑定するための材料は全て使い切ったと言い張る生井響子に、田中義一は不信感を持っていたようです。

生井響子が、ここまで出世出来たのは、「警察の言うことを何でも聞くからだ」と田中は言います。

 

研究者として、事実を伝えることより自分の出世や研究成果を重んじる生井響子…。

こんな研究員がいることを知ると、背筋が寒くなります。

これでは、誰がいつ犯人に仕立て上げられても、おかしくありません。

茨の道を選ぶ三村の娘・ひかり

2009年、ひかりは、足利事件の無罪のニュースをTVで観て、MCT118法が欠陥鑑定であることが判明したのを知りました。

茨の道

ひかりは、この裁判の弁護団に片っ端から電話をかけました。

そして、弁護を引き受けてくれたのが、森田弁護士でした。

父の死刑にも立ち会った立川神父は、ひかりに「前を向いて自分の人生を生きなさい」と言うのですが、ひかりは諦めることが出来ません。

それが、どれほどの茨の道だとわかっていても。

 

冤罪が証明されても、父が帰ってくることはありません。

しかし、私がひかりの立場だったとしても、同じことをしたと思います。

事件当時、ひかりが父と一緒にいたことは、紛れもない事実なのです。

身内の証言は無効だとしても、事実は事実です。

再鑑定の希望

野村鈴子は、首を絞められて殺害されていたのですが、犯人と性交したあとに殺害されています。(当時、鈴子は「恋人は北大生」と周囲に自慢していたようです)

そのため、そのときに犯人の精液がショーツに残っているはずなのです。

そして、遺族が鈴子の遺品を引き取っておらず、札幌県警に残っていることが、『月刊札幌』の記者・葦沢の調べでわかりました。

そのショーツさえ手に入れば、DNA鑑定(今の最新の方法で)が出来ます。

それはすなわち、三村孝雄の無罪を証明できるということです。

検察の横槍

野村鈴子のショーツが出てくると、検察側にとっては、かなり不利な状況に追い込まれるということです。

しかし、検察は「ショーツが見つからなかった」ことにしようとするのです。

 

死刑執行後の死刑囚が、実は無罪だったことがわかるのは、警察、検察、裁判所の威信に関わることです。

日本の司法自体を揺るがすことにもなるのです。

 

そんなことはさせない…と、検察側は道警に、鈴子のショーツを「鋭意、捜索中」のまま押し通せと言うのです。

 

こんなことしてまで、自分たちのプライドや威信を守りたいとは、人の命を一体何だと思っているのでしょうか。

田中義一の証言

田中義一は、MCT118の技官として勤務していましたが、今は名前も知られていない大学の准教授です。

もともとMCT118法について、否定的な研究者だったので、弁護側の証人にさせないために、名門大学の教授のポストを用意することで、黙らせようとします。

 

しかし、田中義一とって、それこそが「余計なこと」だったのです。

田中は、MCT118法が欠陥鑑定であることを法廷で、はっきり証言します。

田中は、他人のことにはあまり首を突っ込まないタイプだと自認しているのですが、名門大学の教授のポストを与え、口を封じようとされたことに腹を立て、「あんたら、人間をあまり舐めんほうがいいよ」と言い残し、裁判所をあとにします。

 

誰もが出世のためだけに動くわけではないのです。

検察側は、本当に、「人間を舐めすぎ」ています。

葦沢の活躍

『月刊札幌』の記者で、調査員の葦沢が大活躍をしてくれます。

田中義一を法廷に引きずり出し、元三村事件捜査班長の宇崎警視と「三村工務店」の車を野村鈴子の店の前で見たと証言した近松五郎が密会していた写真を撮ったのも、葦沢でした。

高瀬検事の過去を調べ、揺さぶりをかけ、検察側が出そうとしなかった野村鈴子のショーツの在り処を記した書類を出させたのも、葦沢でした。

葦沢の行動力とバイタリティがなければ、無罪は獲得できなかったかもしれません。

検察の良心

三村事件の担当検事は、高瀬洋平検事。

彼は、かつて無実の罪の政治家秘書を自殺に追い込んだという過去がありました。

それが、ずっと心に残り続け、今も苦しんでいます。

ひかりに会った高瀬検事

高瀬は、ひかりが雇われママをしているバーに立ち寄ったことがあります。

そして、あくまでも無罪を主張するひかりとも対面しているのです。

今回、野村鈴子のショーツが見つかったことで、DNA鑑定を行うことが出来ることも知っているのです。

高瀬はもうこれ以上、嘘に苦しみたくないと思っています。

次々と証拠隠しをしようとする検察側ですが、高瀬だけは検察側の良心であると思います。

裁判長の交代

田中義一の証言や鈴子のショーツの発見など、風向きがひかりたちの方に向いてきたと思っていた矢先、驚くべき人事が発表されます。

公正な立場の裁判長だった天道正裁判長から、出世欲バリバリの蜷川巌裁判長に変更になりました。

出世欲の強さは、もちろん、検察側が不利になるような判決を出さないということです。

なりふり構わない検察

蜷川裁判長は、裁判は、全て文書だけで進めると宣言します。

そして、「MCT118法の証拠を差し引いても、無罪とはならない」ので、再審請求棄却となりました。

グレーな無罪

葦沢の活躍で、北海道県警で保管されていた野村鈴子のショーツの保管書類が手に入り、DNA鑑定が行われました。

結果は、「不一致」

再審開始。

しかし、検察もそう簡単には引き下がらず、悪あがきを続けます。

推定無罪

再審が開始されると、地裁に差し戻されます。

江藤巧と森田弁護士が、二人で飲みながら、これから先のことを話し合っていました。

 

森田弁護士が言うには、「検察側は、完全な白にするつもりはない」。

「灰色の無罪」とするつもりのようです。

 

間違えたら謝ることは、子供にだって出来ることなのに、それさえも出来ないとは…。

真犯人の手紙

灰色の無罪のまま、裁判が終わろうとしていたとき、江藤巧がしばらく森田事務所に姿を見せなくなっていました。

そして、久しぶりに江藤からひかりに連絡があり、明日の新聞を楽しみにしていてくれと。

江藤は、何か大きなネタを掴んでいるようです。

 

翌日の東日新聞の江藤の書いた記事の見出しは、

《真犯人が自供の書簡 再審の三村事件》

《毛髪を同封、鑑定が一致》

というものでした。

29年の時を経て、犯人が名乗り出てきたのです。

ひかりは、怒りに震えます。

それは、ちょうど時効を迎える時期だったからです。

しかし、ひかりは、これで「真っ白な無罪」を手にすることが出来たのです。

 

そして、この記事で、江藤巧は新聞協会賞を受賞します。

最後に

青木俊著「潔白」の感想でした。

冤罪を作り出す日本の司法制度。

そして、いつ、誰がその闇に突き落とされるかわからない恐怖を感じました。

本書の最後に真犯人がわかります。

ここには書きませんが、二度のどんでん返しがあります。

ノンフィクションに近いフィクションで、最後に二度のどんでん返し。

手に汗握る本書をぜひ、手にとってみてください。

おすすめです!

 

 

以下の記事で、本書と関連のある清水潔著「殺人犯はそこにいる」の感想を書いています。

よろしければ、併せてご覧になってみてください。

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