ショートショート・アンソロジー「怪を編む」感想 著者 アミの会(仮)

今日のお昼にアミの会(仮)「怪を編む」読み終わりました。

25編のショートショート・アンソロジーです。

それぞれの作家の個性が結集し、たくさんの「恐怖」を楽しめる一冊です。

怪を編む AREA ♠

メイクアップ 太田忠司

人は見た目が重要ですが…。

こんなお店があったら、行ってみたいけれど、きっと自分も同じ運命を辿りそうで怖いです。

ブラックユーモアのきいた物語です。

血液型別あなたの今日の運命 友井羊

占いを信じすぎると、人生を操られてしまう。

血液型別の性格をうまく使ったショートショート・ミステリーです。

もしかしたら、誰もが少しは占いに人生を左右されているのかも…。

あなたが好きだから 永嶋恵美

少し悲しくて、怖い物語。

この作品には、二通りの恐怖が隠されています。

語り手が一体誰なのかを考えながら読みましたが、最後にわかり、鳥肌が立ちました。

イルカのシール 似鳥鶏

強盗に襲われて亡くなった小学生の女の子。

彼女が助けを求めていたのは…。

ラスト、まさかの大どんでん返しに言葉を失います。

霊径 松村比呂美

不倫を清算し、家族や友人とも関係を断ち切ってひとり、ある街に逃げて来た主人公。

不倫はやはり罪なことなのです。

結末を読んで、鳥肌がたちました。

怪を編む AREA ♣

微睡みの森 井上雅彦

洋画を思わせるような作品。

所謂、ゾンビ映画を思わせるのですが、実は…。

目の前にその情景がくっきりと浮かんできます。

と・み・た 大崎梢

幼い子供の悔悟の気持ちが痛々しい。

「憑かれる」ということはこういうことなのかもしれません。

しかし、結末は、ホッとする後味のいい物語です。

デコイ 坂木司

実際にありそうな女性同士の関わり方。

要領の悪そうな子ほど…実は…。

もしかしたら、私自身の側にもこんな人がいたかもしれません。

ただ、気がつかなかっただけで。

胡瓜を焼く 田辺青蛙

不思議な世界観。

残酷な部分も、どこか乾いた印象の物語です。

この不思議な物語が暗示しているのは、何なのでしょうか…。

今朝早く、私の左目は旅立った。 矢崎存美

著者の代表作にぶたのぬいぐるみが大活躍する「ぶたぶた」という作品があります。

本作も、不思議な物語ですが、著者の世界観がいい感じに表されています。

不思議ですが、何となく普通に入り込んでしまえる物語です。

怪を編む AREA ♦

母校 芹沢央

母校で講演会を頼まれたひとりの俳優。

いじめというものは、やった本人は覚えていなくてもいじめられた側にとっては忘れられないものです。

そんな気はなくても、いじめられたと思われていたとしたら…。

鴨 北野勇作

フランツ・カフカの小説を思わせるような作品。

どういう意味だろう?と考えながらも、読み進めてしまえるところが不思議でもあります。

本作も、寓話的な要素を持った作品です。

つい…… 柄刀一

車椅子の名探偵・熊谷斗志八は、ある日、首を吊っている人のシルエットを見てしまい…。

タイトルの「つい……」が、何よりも怖いです。

「つい…」で、そんな怖ろしいことが出来るとは。

グリーフケア 新津きよみ

グリーフとは、悲嘆のこと。

主人公の圭子が、カルチャースクールのグリーフケア講座に参加したのは愛犬を失ったからでした。

他の参加者は、自分よりずっと大きな悲しみを背負っている人ばかりだったのですが…。

見事なイヤミスです。

命賭けて 丸山政也

北欧陶磁器の展示会の販売員の女性から聞いた怖い話。

障害があればあるほど燃え上がるのが恋愛です。

しかし、やはり不倫は罪深いことなのです。

怪を編む AREA ♥

甘い種 彩瀬まる

とても現実的な恐怖譚。

こんな風にして、誘い込まれるのだろうな…と思うと誰もがその可能性があると思えてきます。

ダイシさんを漢字で書くと…。

聖女の恋文 篠田真由美

古道具屋の銀猫堂が、南フランスの女子修道院から来た寝台の頭板を、古馴染みの同業者から引き渡されます。

この寝台の頭板には仕掛けがあり、描かれたマグダラのマリアの唇の部分を押すと引き出しが開く。

そして、その中には何十年間もやりとりの続いた恋文の束が入っていました。

しかし、その恋文には秘密があって…。

見つめるひと 柴田よしき

七歳のときに、母に捨てられた主人公の亜子。

亜子の中にいる母は、とても美しい。

亜子は、昔からずっと「母に捨てられた子」と言われることを怖れて生きてきました。

そんなある日、亜子は橋のたもとに佇む母に似た老女に出会い…。

人目を気にしずぎて、結果的に自らを貶めていることを、亜子は気づいたのでしょうか。

記憶 福田和代

昔読んだ本の結末を他の人に聞いてみたら、自分の記憶と全く違っている…そんな経験はありませんか?

どちらの記憶が正しいのか確かめたくなります。

私にも同じような経験があります。

人の記憶の不確かさ、危うさ…もしかしたら、自分もこの物語の主人公と同じだったら…と思うと、恐怖を感じずにはいられません。

夕暮れ色のビー玉 光原百合

幼い頃に好きだったビー玉遊び。

主人公には、お気に入りの藍色のビー玉がありました。

しかし、そのビー玉よりもっときれいなものを見つけてしまい、それがどうしても欲しくなります。

それがあんなに欲しかった理由とは…。

怪を編む AREA

わたしのスペア 近藤史恵

主人公の栞は、就職活動がうまくいかずにフリーターをしています。

ある日、友達と待ち合わせをしていたのですが、友達は遅刻してくると言います。

時間をつぶすために、たまたま入ったギャラリーで見つけた銀のメダルのペンダントは、このメダルにキスをすると願い事が叶うという説明書がついていました。

高価なものなので、栞には買えません。

ちょっとしたイタズラ心でペンダントにキスをしたら…。

みかんの網 鈴木輝一郎

主人公は歴史小説家。

その日は、地元の信用金庫から依頼された「歴史作家とまわる戦国失跡めぐりパート2」の講師として参加していました。

すると、聴講生の一人の老女が話しかけてきて…。

ブラックユーモアたっぷりの作品です。

認知症にかかっていても、本人にはわからないものなのです。

オルレアンの噂 蓮見恭子

新婚旅行の海外でのショッピング中に、試着室から忽然と消えてしまった花嫁が、数年後別の国のある街で、手足を切断されて見世物にされているのが見つかった…という都市伝説があります。

この作品もその都市伝説と同じことが起こったのかと思っていたら、実は…。

結末を知ると、思い込みの怖さに慄然とします。

甘えん坊の猫について 林譲治

私と妻が、ラグドールのココと出会ったのは、妻が見つけたキャッテリーナでした。

家に迎えた当初は、なかなか懐いてくれなかったココは2週間ほどで、豹変。

とても、甘えん坊のかわいい猫になりました。

そんなある日、午前2時15分になると、近所の飼い犬たちが遠吠えをするようになって…。

穴を掘りに 松尾由美

わたしは夜中に切れた電球を買いに、コンビニエンスストアにいくことにしました。

すると、10歳にもならない小学生くらいの男の子に出会います。

少年は大きなスコップを持って、今から穴を掘りに行くといいます。

わたしは、気になって、その男の子について行くことしたのですが…。

人は、心に罪悪感を持っていると、生涯忘れることが出来ないものです。

25の不思議な世界 最後に

アミの会の作家12人とゲスト作家13人、総勢25人の作家のショートショート・アンソロジー。

物語の趣向に合わせてか、5つのAREAに分けられています。

それぞれの作家の個性が感じられ、さまざまな味の怖い話を思いっきり楽しむことが出来ました。

どの物語も、本当に怖いです。

おすすめです!