『悪寒』感想 著者 伊岡瞬|血が繋がっていればこその憎悪

こんにちは。

はるき ゆかです。

昨日の夜、伊岡瞬著「悪寒」読み終わりました。

会社組織で働くということの過酷さと姉妹の確執。

主人公・藤井賢一が本書の中で、二転三転する事件の真相に何度も感じさせれる「悪寒」…。

『悪寒』 あらすじ

藤井賢一は、大手製薬会社のサラリーマンであったが、現在、ある不祥事の責任を被せられ、山形県酒田市の系列会社に飛ばされ、単身赴任中である。

そんなある日、東京で娘と自分の母親と暮らす妻・倫子から、不可解な一通のメールが届く。

「家の中でトラブルがありました…」という一文から始まるメールに胸騒ぎを覚えた賢一は、急遽東京へ戻る決心をする。

その数時間後、警察から妻の倫子を傷害致死罪で逮捕したとの連絡が入る。

殺した相手は、賢一が憎むべき上司、本社の常務だった…。

自分が単身赴任している間に、一体家族に何があったのか。

そこには衝撃の結末が待っていた…。

読んでいる方まで食欲がなくなる主人公の境遇

主人公の賢一は、慣れない「置き薬」の営業を行っています。

最近は、コンビニや大手ドラッグストアなどで安く手に入る薬を、わざわざ定価の置き薬を使う人も少なくなってきているので、営業の仕事はかなり厳しい。

毎日、上司から嫌みを言われ続け、胃の痛い思いをしながら、本社への復帰を心待ちにしているのですが、読者側から見ても、主人公の考えの甘さが感じられます。

社内での覇権争いにも巻き込まれており、このまま雪深い街から出られないままなのではないかと賢一自身が思い始めた頃、事件が起こります。

さらに、賢一は、営業不振と上司のパワハラの上に、家族ともなぜか最近疎遠になってしまっている…。

その理由が徐々に明らかになっていくのですが、この酒田市での賢一の日常は、読んでいるこちらまで胃が痛くなります。

そして、賢一の妻や娘への対応が、まさに「日本のおじさん」そのもの。

そんな平凡なおじさんである賢一が、家族を懸命に信じようとし、家族の再生のために奔走する姿は感動すら覚えます。

姉妹・兄弟という関係の複雑さと確執

2つのグラスにウィスキーを注いでいる

私の兄弟は、兄一人です。

仲のいい姉や妹がいる友人たちがとても羨ましいのですが、本書ではこの「姉妹」という関係の確執がとても鋭く描かれています。

同性同士の兄弟姉妹という関係の確執は、大なり小なりどこにでもあるものですが、ここまでの憎しみが介在してくるものなのかと思わせるストーリーです。

身内であるがゆえに、他人以上に憎しみが深くなっていってしまう残酷さを突きつけられます。

本書の物語の中心は、誰かが誰かをかばって、それをまた誰かがかばって…しかし、その真相はまさに「悪寒」が背筋を走り抜けます。

登場人物も多く、ストーリー展開も次々と変わっていくのですが、とてもわかりやすく、約420ページの長編ミステリーですが、あっという間に読み終えることが出来ます。

読む手が止まらないとはこのことです。

本書には「代償」に登場した白石弁護士親子、「痣」の真壁刑事が登場します。

本書を読む前に、まず「痣」を読んでみられてもよいのではないかと思います。

私は「代償」を先に読んでいるのですが、「痣」は未読です。

時系列的にはこの「悪寒」が「痣」より後のストーリーになります。

最後に

私は、伊岡瞬氏の著作は、「代償」が初めて読んだ作品でした。

そして、今回の「悪寒」が二冊目。

「痣」は既に手に入れています。

どちらも、本当に読む手が止まらず一気読みしてしまいます。

そして、読み手に取ってはうれしいことに、どちらもラストに『救い』があります。

暗いと言えば暗い話ですが、読後感は悪くない。

そして、「男ってバカだな」と女性読者なら思うはずw

また、「痣」「代償」「悪寒」には共通の登場人物が出てくることも伊岡作品をまた手に取ってしまう理由の一つと言えます。

伊岡瞬著「悪寒」、ミステリーファン以外の方にもおすすめの一冊です!


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