『アンソロジー隠す』感想 アミの会(仮)|一生隠し通したいもの

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、アミの会(仮)「アンソロジー隠す」読み終わりました。

今回も11人のお馴染みの女性作家のミステリー短編集です。

あなたにも隠しておきたいものはありますか?

理由 柴田よしき

あらすじ

イラストレーターのつじうち美希が、元お笑い芸人の人気タレント・松本コタローをテレビ局の駐車場で刺した。

松本は、歯に衣きせぬ辛辣なコメントで妙な人気を得ている。

つい2週間ほど前に、その松本が毒を吐いたのがつじうち美希の化粧品のポスターのイラストだった。

女性のまつ毛の上に小さな男性が乗っていたり、女性が小さな男性を指で弾いているおしゃれなイラストなのだが、松本はそれが気に入らなかったらしい。

つじうち美希は、犯行は認めているものの動機については口を閉ざしていた。

自分の作品を批判されたから刺したのではないといい、本当の動機は話したくないというのだ。

つじうち美希の犯行動機とは…?

感想

タレントさんが、辛辣なコメントをしてSNSで炎上しているのは、実際によく見る光景です。

特にお笑い芸人の場合は、実際にそう思っているかどうかは別として、わざと辛辣に皮肉を込めてコメントすることを求められている場合もあるのだろうなと思うことがあります。

ワイドショーなどに何人かのタレントがコメンテイターとして出演していて、みんなが同じことを言ってもつまらないというのは、見ている側からするとそうなのですが…。

場を盛り上げるために言ったコメントが深く人を傷つける場合もあるはずです。

しかし、それとは別に、つじうち美希には、松本コタローをどうしても許せない悲しい理由があったのです。

自宅警備員の憂鬱 永嶋恵美

あらすじ

愛美は、自宅警備員…いわゆる引きこもりである。

中学二年生の夏休みから不登校で、その代わりに祖母の介護と家事一切を引き受けることで、看護師の母を支えている。

愛美には5歳年下の私立中学に通う弟・颯太がいる。

その日、颯太は元クラスメートたちとの旧交を深めるために、地元中学の文化祭を楽しんできたようだった。

その文化祭の帰りに、同じ塾に通っていた成瀬良樹と再会する。

良樹は偏差値の高い名門中学に在学しており、颯太とは二年近く会っていなかった。

その良樹が、どこの学校にもいる「ヤバいヤツら・大西ブラザーズ」と文化祭でちょっとしたトラブルがあり、颯太に「かくまってほしい」と言うのだが…。

感想

イケメンで「デキスギくん」と呼ばれるほどの優等生の成瀬良樹には、どうしても隠しておきたいものがあったのです。

愛美は、最強の自宅警備員です。

ひきこもりなのに、行動力もあります。

成瀬良樹の行動や持ち物などもしっかり観察していて、事件解決後に知った真相も8割方、愛美の推理は当たっているのです。

「不登校・ひきこもり」を理解してくれている母親や弟との関係も、暗いものではなくユーモラスに描かれているのが素敵な短編です。

誰にも言えない 松尾由美

あらすじ

女探偵の安西は、助手の夏野に好意を寄せている。

しかし、それは仕事上、絶対に隠し通さなければならないと安西は考えている。

 

ある日、アメリカの大学院生で現在、日本に留学して来ているリンジー・ハサウェイが事務所に相談に来た。

ホームステイ先の沢村家のご夫婦と息子の三人とも親切でうまくいっていたが、ある日をさかいに、沢村夫妻の態度が突然変わったというのだ。

日本のティーセレモニー(茶会)も開いてくれると言っていたのに、それも中止にすると言われ…。

感想

外国語で気持ちをうまく伝えるってやはり難しいんだなぁと思いました。

文化的な違いもありますが、外国の方にこちらの真意を伝えるのは本当に大変ですし、善意で行っていることをうまく伝えられないとそれが相手を傷つけてしまう…。

ホームステイ先として、外国人の方を受け入れられているご家庭でもこの短編のようなことが起こっているのではないでしょうか。

女探偵・安西と助手・夏野のコンビはシリーズ化されているようなので、他の作品も読んでみたいと思います。

撫桜亭奇譚 福田和代

あらすじ

撫桜亭と名付けられた屋敷の所有者で不動産王・岡崎東馬が亡くなった。

なぜ父が、交通の便も悪いこの地に邸宅を建てたのかを、弁護士に「小栗上野介の埋蔵金伝説がある地だからだ」と、息子の卓也が冗談まじりに話していた。

その日は、撫桜亭に兄弟たちを集めて、相続の話をすることになっていた。

資産は、マイナス2億円。

岡崎東馬は、埋蔵金発掘のために借金に借金を重ねていたのだ。

しかし、岡崎東馬には隠し通さなければならないある秘密があって…。

感想

怖い…。

埋蔵金に憑りつかれていた方がずっとましです。

この怖さ、ご自身でぜひ確かめてみてください。

骨になるまで 新津きよみ

あらすじ

福島美里の母方の祖母・吉川志野が亡くなった。

その葬儀の席で、祖母に離婚歴があることが発覚する。

初めの結婚のときにも子供がいたといい、美里の母やその弟以外にも、子供がいたのである。

美里の母・初美も、直接志野からその話は聞いていない。

出来れば墓場まで持っていきたいことだったのかもしれない。

それ以上に、志野はあることを隠し続けていて…。

感想

母の愛の強さなのか、息子の保身だったのか。

本当の答えは何だったのだろう…と、悲しく、それ以上に怖ろしい作品です。

志野が最後まで秘密を隠し通した理由は贖罪のつもりだったのでしょうか。

ただ、言えることは母の愛の強さだけは真実であったということです。

アリババと四十の死体・まだ折れていない剣 光原百合

アリババと四十の死体 あらすじ

アラビアンナイトの中の一編「アリババと四十人の盗賊」を元にしたオマージュ作品。

聡明で美しい女奴隷・モルギアナは、アリババの財宝を取り返しにきた盗賊を機転を利かせて退治する。

その裏には、モルギアナ自身のあるたくらみがあって…。

感想

聡明で美しいモルギアナは、今までひどいにあってきたこともありますが、かなりのやり手です。

美しく聡明な女性に、男性はコロッと騙されてしまうのでしょう。

モルギアナは、このあともたくましく幸福を手に入れて行くことだと思います。

まだ折れていない剣 あらすじ

G.K.チェスタトン「折れた剣」を元に書かれた作品。

セント・クレア将軍は、今、まさに戦いに出かけるところだ。

今回の戦いも、それほどの犠牲を払うことなく、彼には終えられる勝算があった。

そんなクレア将軍にも葛藤があった。

年若く美しい後妻の浪費のために、金が必要だったクレア将軍は、ある諜報員に情報を売り渡していたのだ。

そして、それを部下で妻の知己であるマレー少佐に知らてしまい…。

感想

なんとも、男性と言うのは美しく無邪気な女性にこうも弱いのでしょうか。

軍人としてのプライドと妻への愛の狭間で苦悩していたはずのクレア将軍。

結局は…。

残酷な物語です。

バースデイブーケをあなたに 大崎梢

あらすじ

佳美は、老人ケアハウスで働いている。

入居者の早瀬奈美子宛てに、毎年誕生日に大きな花束が届く。

送り主はイニシャル「M」とだけある。

毎年同じフラワーショップから花束が届くのである。

「M」とは一体、誰なのか。

感想

とても、心温まる可愛らしい物語です。

小説家志望で文学少女だった奈美子。

面会に訪れる人もなく、ケアハウスで生活する老人を可哀想だと思うのは間違っているのかもしれません。

甘い生活 近藤史恵

あらすじ

千尋は、何でも「人の物がほしくなる」タイプ。

子供の頃ならお菓子やお人形、シャープペンシル、香り付き消しゴムなど、千尋は巧みに友達の物を自分の物にしてきた。

そんなある日、自宅で一緒に勉強をしていた友達の沙苗が持っていた美しいボールペンがどうしてもほしくなった。

千尋は完璧な方法でその美しいボールペンを手に入れるのだが…。

感想

怖いです。

私個人としては、本書の中で一番鳥肌が立ったラストでした。

人の物ばかり欲しがる人は、私の周りにも確かにいますが、いい加減にしておかないとたいへんな目に遭うということですね。

水彩画 松村比呂美

あらすじ

塔子の母・芳賀悠子は、画家である。

今では作品展を開けば、そこそこの高値で絵が取引されるほどに名前も知られている。

しかし、母の悠子は、子供の頃から塔子に対して冷たく、一度も愛情を持って接してくれることがなかった。

母のアトリエはもちろん、寝室にも一度も入れてくれない。

塔子には、なぜ自分が母から愛されないのかがわからない。

そんなとき、塔子が母が在廊しない日に母の作品展に行ってみることにした。

すると、母が現れて、突然、二人でランチに行こうと誘われ、それ以後、母は塔子に優しくなって…。

感想

初めは、芸術家独特なデリケートな性質に、翻弄される可哀想な娘の話…かと読み始めました。

私の周りには芸術家肌の人が多いので、何となくわかるなぁと思っていたのですが、真相はそうではありませんでした。

とても切なく苦しい物語です。

しかし、読後感は良いものになっています。

少年少女秘密基地 加納朋子

あらすじ

カイセイとジンタンは、小学生の男の子。

自転車の補助輪が外せて、行動範囲が広がったのに、学童保育に行かなくてはならない。

冒険をするために、二人は母親に、おやつを食べたら帰ってもいいことにしてもらおうと話し合う。

そして、二人は冒険の途中で秘密基地を見つける。

しかし、その秘密基地は「女の子たち」が先に使っていたようだ(おままごとのあとがあった)。

それとは他に、いやらしい本まで置いてあった。

と、言うことはカイセイ・ジンタン、女の子たち、汚い大人の3種類の人間がここに来ていることになる。

ある日、二人は汚い大人から女の子たちを守らなければと思い立ち…。

感想

とても、可愛くて心があたたかくなるちょっと切なさもある物語です。

前半は、カイセイとジンタンの小学生時代、後半は中学生になった二人のお話です。

後半に前半のさまざまな謎が解き明かされ、不思議な縁を感じることも出来ます。

幼馴染というのは、本当にいいものですね。

心残り 篠原真由美

あらすじ

十三歳から東京で大きなお屋敷の奥様の小間使いになった「あたし」。

奥様は旦那様より三十歳も年下で、旦那様にとっては三人目の奥様だった。

奥様の父親は東京帝大で英文学を教えていたが、借金を旦那様に肩代わりしてもらい、奥様を三人目の妻にした。

奥様は女学校を卒業した教養のある方だったが、旦那様は元は百姓であった。

奉公に上がって二年目、奥様は体を悪くし、伊豆に静養に行かれることになり、あたしだけがお供をすることに。

奥様は流産され、その子供は旦那様の子供ではなかった。

東京を出る前日、あたしは旦那様の筆頭秘書の杉さんに奥様の行動を逐一ノートに記すように言われ…。

感想

物語は、一人の小間使いをしていた女性の告白から始まります。

ずっとひた隠しにしてきた奥様の物語。

旦那様はヒキガエルのような容姿で、筆頭秘書の杉さんは女中たちが噂をするほどの美男子です。

杉さんは、旦那様に最も信用されていた秘書だったのですが、奥様のお相手は…。

しかし、打算的な杉さんは、奥様を捨ててしまいます。

そして、最後はぞっとする結末が待ち受けています。

心残りを告白していたのは…。

アンソロジー隠す 最後に

アミの会(仮)「アンソロジー隠す」の感想でした。

11人の女性作家の多種多様なタイプの作品が集録された短編集です。

そして、あとがきにも書かれていますが、11の物語全てにある一つの小道具が出てきます。

すぐにわかると思いますので、ご自身で読んで確かめられてはいかがでしょうか。

心温まるものから鳥肌が立つほど怖い物語まで楽しめるおすすめの一冊です!