こんにちは。
はるき ゆかです。
ドリアン助川著『あん』一昨日の夜に読み終わりました。
著者のドリアン助川氏は、今は解散していますが「叫ぶ詩人の会」というパンクロックバンドの中心メンバーでした。
詩が好きな友人から教えられて、バンドの存在自体は知っていましたが、本書のような小説を書かれたことは、正直、少し意外でした。
これも、また偏見なのでしょうね…。
今回は、少しネタバレで感想を書きます。
あん あらすじ
刑務所から出所した千太郎は、どら焼き屋「どら春」の雇われ店長として働いている。
その千太郎の店に、徳江という老女が現れ、どうしても雇ってほしいと懇願する。
徳江が作る「あん」は評判を呼び、店は大繁盛するが、徳江が実は元ハンセン病患者であったことが噂となって…。
病に対する偏見
本書は、昔は「らい病」、今は「ハンセン病」と名前を変えた病に苦しめられた女性・吉井徳江と刑務所帰りで借金のあるどら焼き屋の雇われ店長・辻井千太郎の物語です。
私は「ハンセン病」については、ほとんど知識がなかったのですが、ハンセン病患者がこれほどまでにひどい扱いを受けていたとは…本書を読むまで知りませんでした。
無知とは怖ろしいものです。
確かに、怖い病気であり、感染する病気でもあります。
しかし、今では治療法も確立され完治する病気です。
さらに、感染力がとても低い病気であることも証明されています。
私の「ハンセン病」の知識は「昔は『らい病』と言われていて、今は治る病気」くらいしかありませんでしたが、本書を読んで、ハンセン病患者の苦しみは、ただ病気の辛さだけでなく「迫害」と言ってもよいくらいの差別を受けてこられたことだと知りました。
それも、つい最近まで。
もちろん、誰も病気にはなりたくありません。
しかし、きちんと治療を行えば、完治する病気だとわかっている現在でも差別はあるようです。
おそらく、病気の症状が見た目に現れる病気であることも「差別」を助長しているのはいわずもがな…でしょう。
徳江さんは軽症な方ですが、手の指が曲がっていたり顔にも少し後遺症が残っています。
私自身も持病があり、体の痛みから抑うつ状態になる場合があり、職場で「精神を病んでいる頭がおかしい人」と噂されたことがあります。
神経系のもので絶対に感染はしませんが、「うつらないとは言い切れないでしょ?」と言われたこともあります。
あまり知られていない病気であることから、ある程度の偏見は仕方がないとは思います。
最近ではレディー・ガガや八木亜希子アナなど、芸能人が同じ病気であることをカミングアウトされてからは、少し見方が変わったようですが。
もちろん、それは一部(というか一人…)の偏見に凝り固まった異常に病気の感染(風邪、インフルエンザ、ヘルペスなども)を恐れている人にだけだったので、ハンセン病患者の方々の受けて来た差別とは度合いが違いすぎますが…。
しかし、私の持病でもそれなのだから、実際、ハンセン病患者の方への差別はいかほどかは想像に難くないでしょう。
本書の中でも、自分を恥じながらも、千太郎がハンセン病に感染したのではないかと疑念を持つ場面が出てきます。
徳江が完治しているとわかっていても、千太郎の反応が「世間の反応」であるかのように。
甘いものの幸福感
本書には、過酷な病との闘いと相反するものとして、おいしい「あん」のどら焼きが出てきます。
甘いものは人に幸福感を与えます。
徳江が今も住むハンセン病患者を隔離する施設「天生園」は、ひとつの街として機能しています。
一切、外の世界から隔離されて生きて行かなければならなかったハンセン病患者たちは、施設の中でそれぞれが得意なものを「仕事」としており、徳江は、施設の中で元菓子職人であった夫らと共に製菓部で働いていました。
徳江は、あん作りを50年間続けてきたのです。
本書の最後の方で、徳江の親友であった女性・森山さんが、徳江が「あんの声を聞く」「木々がささやく」と言ったことをやや避難がましく言う場面があります。
しかし、私には徳江の言うことがわかる気がします。
塩どら焼きは完成する
徳江の去ったあとの「どら春」は客足が遠のいていきます。
そこで、塩饅頭や塩大福のように、塩どら焼きも売れるのでは…という徳江と森山からのアドバイスを受けた千太郎ですが、物語の中で完成には至りません。
私はそこがとても気になるところなのですが、いつか千太郎は、きっと塩どら焼きを完成させると信じています。
最後に
本書は、河瀨直美監督、樹木希林主演で映画化されているのはご存じの方も多いと思います。
私もまだ観ていない…というか、原作を読んでから観ようと思っていたので、近々Amazonプライムビデオで観る予定です。