「クローバー・レイン」感想 著者 大崎梢|作家のプライドと編集者の想い

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、大崎梢著「クローバー・レイン」読み終わりました。

一冊の本が出来るまでに、これだけのたくさんの想いが込められていることを知って感動しました。

素晴らしい本は、きっと読者の手に届く!

「クローバー・レイン」 あらすじ

大手出版社に勤める彰彦は、落ち目の作家の素晴らしい原稿を手にして、本にしたいと願う。けれど会社では企画にGOサインが出ない。いくつものハードルを越え、彰彦は本を届けるために奔走する__。本にかかわる人たちのまっすぐな思いに胸が熱くなる物語。

[引用元]ポプラ文庫「クローバー・レイン」裏表紙

一冊の本が出来るまで

私は、学卒で入った会社が印刷会社で、書籍を作る課の所属でした。

本が出来るまでに何度も校正が入り、再校はもちろん、四校くらいまでする場合もありました。

しかし、それはこの原稿で本を作ると決定された後の話です。

本書では、まず作家の書いた小説を編集者が読んで、本にするかどうかから始まります。

まず、そこが一番難しいところ。

 

新人賞など賞を受賞したり、既に何冊かベストセラーを出している作家などは別として、一般的に名前の知られていない作家の書いた作品は、まず担当編集者に認められなければなりません。

本書の冒頭で、老舗大手出版社の千石社の編集者・工藤彰彦が、5年前の千石小説大賞受賞者・倉田竜太郎の原稿にNGを出すシーンから始まります。

作家本人がどれだけ思い入れのある作品であっても、出版社もボランティアではないので、求めているのは「売れる本」なのです。

 

一冊の本が出来るまでには、まずこの編集者から合格点をもらい、編集長のOKが出て出版会議にかけられ、どの本をいつ出すかが決められて、装丁(装丁も本の売れ行きに大きく関わってくるようなので決定までには時間がかかります)や帯が決まり、印刷会社に回り、校正を重ねて…と、気の遠くなるような作業が必要です。

本によっては、もっといろんな事情が絡んでくるようですし…。

本が発売されると、出版社の営業が書店に働きかけ、書店員さんがポップを書いたり、本の置き場所をお客さんの目に留まりやすいところに置いてくれたり…そして、お客さんがその本を手に取って、お金を払って初めて読者の元に本が届くのです。

 

出版されても、誰の手にも取られなかったら、それは出版されなかったのと同じなのかもしれません。

編集者の想い―『シロツメクサの頃』

雨に濡れたクローバー

主人公の工藤彰彦は、千石社の文芸部に配属されて3年目。

ある日、他社の新人賞贈呈式に出席した彰彦は、会場で作家の家永嘉人を見かけます。

彰彦が担当している作家の一人です。

家永は、しばらく、目立った作品を出していない20年ほどキャリアのある作家で、このところ彰彦の元に連絡も途絶えていました。

そして、ちょっとしたトラブルのあと、酔いつぶれた家永を彰彦が家まで送ることになり、そこで彰彦は、家永が執筆したある小説に出会います。

 

それが『シロツメクサの頃』です。

家永は、この作品を売り込むためにパーティに出席したのですが、どの出版社からも良い返事がもらえず、悪酔いしてしまったようです。

そのまま眠り込んでしまった家永の横で、彰彦はこの『シロツメクサの頃』を読んでみることに。

夜間中学を舞台にした素晴らしい感動作で、彰彦は、読み終わる頃にはティッシュを顔に押し当てるほど号泣していました。

そして、彰彦はこの作品をぜひ本にしたいと、強く思うのでした。

 

この段階で、私も『シロツメクサの頃』を読んでみたい!と既に思っていました。

そして、本書を読んでいる間中、ずっとそのことを思い続けていました。

本書の中で、少しづつ『シロツメクサの頃』の内容が語られるのですが、きっと私も好きになれそうな気がしていました。

おそらく、派手な大団円が待ち構えているような作品ではないと思いますが、切ないけれど心が温かくなるような…そんな物語を、勝手に想像してしまいます。

 

ここから、彰彦が『シロツメクサの頃』を出版するまでの戦いが始まります。

そして、それまでに、たくさんの個性的な登場人物が現れます。

相馬出版の編集者・国木戸、千石社のイケメン敏腕営業社員・若王子、彰彦が所属する部の編集長・矢野、先輩女性編集者・赤崎、元家永の担当編集者・鈴村…

そして、家永の娘・冬実。

 

彰彦がこの本にこだわる理由は、ある人に読んでもらいたいという気持ちがあったからです。

ある人とは「なおちゃん」という人物です。

カフェバー「bata」の雇われ店主で、彰彦の幼馴染の河上との会話や、彰彦の回想シーンなどの中に「なおちゃん」は登場するのですが、それが誰なのかは本書のラスト近くにしかわかりません。

読みながら、「なおちゃん」ってどこかに出てきたかな?と読み終わったページを何度かめくり直してみるのですが、答えはラスト近くまで明かされないのです。

そして、ラストシーン、「なおちゃん」の『あること』で、私たちはとてもあたたかい気持ちになれるのです。

それは、彰彦のもう一つの夢が叶った瞬間でした。

作家の苦悩と雨

本書の中で、「雨」がとても重要な役割を果たしています。

『シロツメクサの頃』の中でも、本書自体の中でも。

雨は、しっとりと優しく心に降るものとして。

 

何もないところから一つの物語を紡ぎ出す小説家。

そして、小説を書くことを仕事にするなら、一冊書けばよいというわけではなく、何冊も書いたものが売れてやっと小説だけで生活が出来るようになると言われています。

作家デビューしてからも、会社員を続けている、コンビニでバイトをしている…というのはよく聞く話です。

 

逆に、才能豊かでチャンスに恵まれた人は、ベストセラーを連発しています。

本書を読んで感じたのは、今まで、どれほどの名作が陽の目を見ずに消えていったのだろうということです。

この『シロツメクサの頃』は、彰彦に見つけられたことで出版することが出来ました。

それも、家永本人が営業をかけても読んでもらえなかったのに、たまたま担当編集者の彰彦が酔った家永を家に送り届けたことがきっかけです。

人との出会いと同じで、小説もタイミングやある意味「奇跡」が起こって作られているのだと思います。

 

彰彦は、『シロツメクサの頃』を出版するために、ある事情から家永の娘の冬実と出会います。

出会いは最悪。

しかし、二人は徐々に心を通わせることになるのですが…。

結末は、本書らしい結末になっています。

ぜひ、本書を読んでそれを確かめてみてください!

最後に

大崎梢著「クローバー・レイン」の感想でした。

本好きな人にとって、本書はとても興味深い作品だと思います。

そして、小さな伏線も全て美しい形で回収されていきますので、心がほっこりとします。

おすすめの一冊です!

 


([お]13-1)クローバー・レイン (ポプラ文庫)

Amazon