先ほど、「殺人犯はそこにいる」読み終わりました。
最も大切なことが、忘れ去られていることに、とても残念な気持ちでいっぱいになりました。
警察の印象
ちょっと話が長くなります。
もう10年以上前の話。
私は会社からの帰宅途中で、ひったくりにあったことがあります。
10月下旬のことでした。
学生時代の親友が、新婚旅行のお土産だといってプレゼントしてくれたヴィトンのバッグに、自分でシンガポール旅行に行ったときに奮発して買ったヴィトンのお財布と定期入れ、そっくりそのままひったくられました。
もちろん、携帯電話も、空のお弁当箱も、システム手帳も、読みかけの文庫本もすべて。
近くのコンビニで電話を借りて、警察に電話をしました。
クレジットカードも何枚か財布に入っているはずなので、とにかくカード会社に電話したいと言っているのに、のんびりした口調で、「ひったくりは捕まりませんよ。とりあず、近くの交番で届け出してくだいね」という婦警さんの対応に、まずイライラ。
コンビニの店員さんに、一番近くの交番を教えてもらい、交番で盗難届を出しました。
交番の巡査さんたちは、とても親切で、「このあたりはひったくり多いからね」「たいへんだったね」「怪我はしていませんか」と。
初めてのことに、慌てて汗だくになっていた私の気持ちも少しづつ落ち着いて来ました。
すると、交番に電話が架かって来ました。
初老の巡査さんが電話を取って「……いや、それはないと思いますよ」と何度も繰り返していました。
そのときは、私のひったくりとその電話は全く別件だと思っていました。
巡査さんにいろいろバッグに入っていたものの詳細などを話して、盗難届も書き終わって(と、言っても結構な時間がかかりましたが)私が帰ろうとすると、初老の巡査さんに「すみませんね…。刑事さんがこっちに向かっているので、もう少し時間頂けますか?」と、とても申し訳無さそうに言われました。
(刑事さん?)と、心の中で、つぶやく。
私は怪我もしていないし、わざわざ刑事さんが来るってなんだろう?と思っていると、鬼の形相のおじさんが二人、交番に駆け込んできました。
そして、「事情聞くから」「犯人の顔見た?」「男か女どっち?」「犯人の特徴は?」と矢継ぎ早に聞かれたのと、初めて見る「刑事」という人たちに圧倒された私は、「後ろからバイクでひったくられたので、顔は見てませんが、男性です。
服装は作業着のような上下おそろいの…」まで言ったところで、「顔も見てないのになんで男だってわかるんだ?え?それに、ひったくりにあったっていうのに、ずいぶん落ち着いてるなぁ」と凄まれました。
優しい巡査さんたちのおかげですけど?
(私は被害者なのになんでこんなに偉そうな言い方で「尋問」されているの?)と思いながらも、「顔を見なくても後ろ姿の肩幅や体格や髪型で男性か女性かはわかりますよね」と、交番の若い巡査さんに助けを求めると、すっと目をそらされました。
「女でもがっちりした肩幅の人間は山程いるだろ?
なんで顔も見てないのに男だって言えるんだって聞いてるんだ!
それに、警察に電話してきた途端にカード会社に電話したいって言ったらしいな?」と、凄まれても、私の頭の中は「???」
もうひとりの刑事が「犯人の顔見た?」「男か女かどっち?」「犯人の特徴は?」と同じことを質問してきました…。
これ、ドラマでよく見るやつ。
完全に犯人扱いじゃないの?でも、一体、私は何の犯人なの?
「まあ、いい。そこの白い壁の前に立て!写真撮るから」
「え?被害者の写真なんて撮るんですか?」と聞いても、首から下げたカメラで私の顔を正面と横から撮ろうとする刑事。
写真を撮ったら、さっきと同じ質問をまた繰り返すので、「犯人の顔見た?」「見てません」「男か女どっち?」「わかりません」「犯人の特徴は?」「わからない!私は何も答えない!」とキレ気味で答えたら、何故か何も言わずに来たときと同じように走って帰って行った刑事のおじさん二人。
なんで走っているんだろう。
一体、なんなの?
私はあまりにも腹が立つと顔が青くなります。
巡査さんたちは、私が気分が悪くなったと勘違いしたようで(違う意味で気分は悪かったけど)初老の巡査さんが、「私たちはお嬢さんのこと疑ってませんよ。
刑事さんは人疑うのが仕事だから許してあげて」と頭を下げてくれました。
「私は何を疑われているんですか?それに、刑事の仕事は犯人捕まえることで、人を疑うことじゃないでしょ?」と怒り心頭の私は、収まりません。
ひったくりにあって、刑事に恫喝されるとは夢にも思いませんでした。
「一体、どういうことなんですか?写真まで撮られて、理由を聞かせてもらう権利、私にはありますよね?」
「いや…最近、増えてるんですよ。クレジットカードを盗まれたと警察に駆け込んできて、カードを止める前に、共犯者がその間に限度額いっぱいキャッシングをするっていう詐欺が。それで、カード会社に電話してキャッシングされてることを確認して…お嬢さん、カード会社に電話したいってずっと言ってたでしょ?」
「普通、クレジットカード盗まれたら、カード会社に初めに電話するのが普通でしょ?」
自分でも驚くほど、別人のような低い声でそう言いながら、もうすぐ11月だというのに、カーディガンの下のポリエステルのブラウスが、汗で背中にくっついてくるのが不快だったというどうでもいいことを、今も皮膚感覚で記憶に残っています。
そう…さっきの刑事に「ずいぶん、汗かいてるな。もう11月だっていうのに」ってニヤニヤしながら言われたんでした。
ひったくりにあった冷や汗に決まってるでしょ。
刑事に恫喝された犯人が焦って汗かいてるとでも言いたいの?今思い出しても、胃がムカムカするような経験でした。
よく、ひったくりは捕まらないっていいますが、そういう理由で捕まらないんじゃないんですか?
結局、刑事さんのおっしゃるとおり犯人は捕まらなかったけど、後日、交番から電話があり、近くの河原に、ヴィトンのバッグと財布と定期入れと現金以外は全て捨てられていたそうです。
泥だらけの割れた空のお弁当箱と濡れてビロビロのシステム手帳とタオルハンカチと水没した携帯電話。
どれも止めたり買い替えたりしたので処分してもらうことにしました。
ヴィトンは中古でも売れるらしいので、現金とヴィトンだけ持ってったみたいです。
カード類や銀行のキャッシュカードには手をつけてなかったらしいです。
絶対、プロの仕事じゃないか。
あのときの刑事は私に謝る義務はないのか。
私には謝ってもらう権利はないのか。
物を知らない私がクレジットカード会社に電話させて!と言い続けたことが、詐欺だと疑われていたという事実。
黙って犯人みたいに写真を刑事に撮らせてしまったことが、10年経っても口惜しいです。
ひったくりにあって、今、警察にいることを電話したときの母の震えた声。
初老の巡査さんにパトカーで家まで送ってもらって、何とか家にたどりついたときの愛犬の喜んでいるような安心したようななんとも言えない顔。
一生忘れられないと思います。
今でも、親友がお揃いだよと買ってきてくれたヴィトンのバッグだけでいいから返してほしい。
お金もあげるし、自分で買った財布と定期入れはあげるから。
犯罪とは結局そういうことなのだと思います。お金や物だけじゃなくて、思い出や気持ちを奪っていくもの。
後日、親友にそのことを話したら、「たいへんだったね。怪我はなかったの?じゃあ、よかった」と言ってくれたときに私は初めて泣きました。
友達はみんな、「怪我しなかっただけよかったよ」「その刑事うっとおしい」「(弁護士の娘が)父から抗議してもらうわ」と言ってくれたけど、友達でも何でもない人たちは、「ぼうっとしてるあんたが悪い」「あの道でひったくりにあうのは注意力散漫すぎ」「ひったくりなんてダサっ!」とゲラゲラ笑った人もいました。
「ぼうっとしてるあんたが悪い」んじゃなくて「ひったくりするヤツが悪い」んです。
冤罪を生む背景
私のひったくりなんてこの『殺人犯はそこにいる』の中の事件に比べたらミジンコより小さい出来事だけど、警察に恫喝されたら、何も悪いことしてなくても人は萎縮して言いなりになってしまうものだということは、身を持って知りました。
こんな小さなひったくり事件でもトラウマになっているのに、殺された小さな女の子たちは、どれほど怖い思いをしただろうと思うと胸が痛くなります。
冤罪で何日間も刑事に恫喝され続けた無実の人々の気持ちは、どれほどの恐怖だっただろう。
それにしても、警察って、なんで謝らないんだろう。間違いは誰にだってあります。
まさに「ごめんなさいが言えなくてどうするの」です。
私は、この経験をするまで刑事さんは正義の味方だと心の底から信じていました。
警察のプライドのために、自分がいつ犯人に仕立て上げられるかわからない恐怖。
もちろん、真犯人は野放し。
そして、私は怪我もなかったし、ひったくりにあっただけだからなんて言われてもいいけど、「パチンコ屋さんに子供連れて行くから悪い」なんて、被害者遺族に、絶対言ってはいけないことです。
自分の身内が同じ目にあっても、同じことが言えるのか?
最後に
『殺人犯はそこにいる』の感想でした。
未だに、真犯人は捕まっていません。
一日も早く横山ゆかりちゃんが元気で帰って来ますように。
絶対「ルパン」が捕まりますように。
著者の清水清氏のおっしゃる通り…「逃げられるなどと思うなよ」
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