「物語のおわり」読書感想 著者 湊かなえ|それぞれの物語の結末

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、湊かなえ著「物語のおわり」読み終わりました。

湊かなえさんの作家としての力量を、改めて感じさせられた小説でした。

物語の結末は、とても優しいあたたかい結末でした。

ネタバレ感想ですので、未読の方はご注意ください!

「物語の終わり」 あらすじ

病の宣告、就職内定後の不安、子どもの反発……様々な悩みを抱え、彼らは北海道へひとり旅をする。その旅の途中で手渡された紙の束、それは「空の彼方」という結末の書かれていない小説だった。そして本当の結末とは。あなたの「今」を動かす、力強い物語。

[引用元]朝日文庫「物語のおわり」裏表紙より

本書は、短編の形をとった長編小説です。

それぞれの物語が、つながって最後の結末へと進みます。

空の彼方

絵美は、ある山間部の小さな街のパン屋さん「ベーカリー・ラベンダー」の娘で、中学生の女の子です。

絵美はあまり遠くの土地へ行ったことがありません。

それは、家がパン屋で、営業は毎日。

絵美は、同級生の道代に自分の空想していることをノートに書いて、読んでもらっています。

その文章を、道代はいつも褒めてくれています。

道代は、東京に引っ越すことになり、絵美と文通を始めます。

 

そんなある日、実家のパン屋さんのパートさんが辞めてしまい、絵美は学校に行くまでの間、レジ打ちの手伝いをすることになりました。

毎日、朝にパンを買いに来てくれる高校生の男の子がいて、彼は毎日ハムロールやハムサンドを買ってくれるので、絵美は心の中で「ハムさん」と呼んでいました。

ハムサンド

ハムさんに渡すおつりを間違えたことがきっかけで、二人はつきあうことになります。

ハムさんは、北海道大学に、絵美は地元の高校に行くことになりました。

大学を卒業したら、ハムさんは地元に帰ってくると絵美と約束をしてくれます。

絵美とハムさんは遠距離恋愛となりましたが、ときどき小説を書いては送り、ハムさんに読んでもらっていました。

 

大学卒業後、ハムさんは地元に戻り、絵美が二十歳になるのを待って結婚する予定です。

そして、絵美は道代とも文通を続けていて、絵美の小説を読んでもらっていました。

 

ある日、道代が人気作家の松木流星の内弟子になると聞かされます。

しかし、道代は松木流星の担当編集者と恋仲になり、松木から破門を言い渡されたというのです。

そして、松木が絵美の小説を気に入っていて、道代の代わりに内弟子にならないかという話が持ち上がります。

 

もしかしたら、自分の小説が出版されるチャンスがあるかもしれない…。

 

そう思うと、絵美は東京へ行きたいという気持ちが溢れてきます。

両親もハムさんも、もちろん反対しますが、絵美はひっそりと東京へ向かう決心をします。

すると、駅に着いた絵美を、ハムさんが先回りして待っていたのです。

 

物語はここで終わりです。

その後、絵美がどうなったのか、結末は、書かれていません。

そして、この小説が、北海道を旅する人の手から手へ渡って、それぞれが人生の岐路に立ち、自分ならこの小説の結末をどうするかを考えることになります。

過去へ未来へ

赤ちゃん

北海道・小樽へ向かうフェリーに乗っている智子

智子は、現在、三十五歳の妊婦さんです。

北海道への旅は、今回で二度目で、一度目は、二十年前で、両親と智子の三人でした。

 

父は、東京のテレビ局に勤めていて、単身赴任をしていました。

そんな父は、北海道旅行のあと、直腸がんで亡くなります。

 

今は一人でフェリーに乗っていますが、建設会社に勤める夫・隆一と、北海道で合流することになっています。

そして、智子は妊娠がわかってから、自分が父と同じ直腸がんであることが発覚。

子供をあきらめて、がんの治療を行うかどうかに悩んでいます。

 

智子は、フェリーで一緒になった中学生くらいの萌という少女に、出会います。

そして『空の彼方』を手渡されます。

 

智子の考えた結末は、絵美は一旦は家に連れ戻されますが、後日、ハムさんの許しを得て東京に行く。

ハムさんからいくつかの厳しい条件は出されましたが、絵美はそれを守ると約束します。

そして、ハムさんは、絵美に

__後悔のないよう、精一杯がんばればいい。だけど、これだけは心に留めておいてほしい。きみには戻る場所があるのだということを。(本文 p.82より引用)

 

そして、智子は、今、自分のお腹に宿っている赤ちゃんを産み、自分も生きることを決意します。

花咲く丘

拓真の実家は、山陰地方の町のかまぼこ工場です。

そして、拓真の夢は、プロのカメラマンになることでした。

しかし、父が亡くなり、実家のかまぼこ工場を継ぐことになりました。

 

拓真が、プロのカメラマンを目指すきっかけとなったのは、北海道への家族旅行でした。

そこで撮った写真が、とても素晴らしく、みんなに褒められたからです。

そのとき、拓真はまだ10歳でした。

 

拓真は、新人カメラマンの登竜門と言われる賞を受賞したこともあり、最近では一流の風景写真家・黒木譲二にアシスタントにならないかと声をかけられるほどの腕前。

しかし、拓真は、プロのカメラマンの夢を断念するために、今回一人で北海道旅行を計画しました。

 

そして、拓真は旅の途中で、知り合った智子に『空の彼方』を手渡されます。

 

拓真の考えた『空の彼方』の結末は、

駅まで来た絵美は一旦家に帰りますが、それは作家になる夢をあきらめたわけではないのです。

作者が田舎に住んでいようが、都会に住んでいようが、最終的に評価されるのは作品だ。すばらしい作品であれば、編集者は山の奥までも原稿を取りに来るはずだ。(本文 p.137~138より引用)

拓真は、自分は夢をあきらめたのではなく、魂の込もった作品を生み出すために、一旦、夢を突き放すのだと、考えます。

『空の彼方』を読むことで、拓真の心に希望の光が灯った瞬間です。

ワインディング・ロード

大学生の綾子の趣味は、サイクリングです。

希望していたテレビ制作会社の内定が取れて、大学生最後の夏休みに好きな自転車で北海道を回っているのです。

この会社は、大きな制作会社ではありませんが、心に残る良いドラマを作る会社でした。

綾子は、ここで「物語」を作りたいと思っています。

 

綾子は、本を読むのが好きで、サークル活動は、大学の文芸同好会を選びました。

そこで知り合ったのが、先月別れたばかりの恋人・剛生でした。

 

剛生は、作家志望で、理屈っぽく、自信家。

就職活動もせず、文芸賞の応募に精を出していますが、なかなかうまくいかないのです。

そんな理屈っぽく、時には綾子を傷つける言葉を投げつけてくる剛生でしたが、綾子は物語を書く人として尊敬していました。

 

綾子は、旅の途中で、コンビニの駐車場で、ちょっとしたトラブルに遭遇します。

中学生のケンカでした。

ひどいことになりそうになったのを見て、止めに入ったのが拓真でした。

 

そのあと、大きな針葉樹の写真を撮ろうとしていた綾子が、うまく撮れずに困っていると、「シャッター押そうか?」と声を掛けてくれた人がいました。

それが拓真でした。

綾子は拓真に、コンビニでの出来事の話を聞いて、自己紹介代わりに、自分がテレビ制作会社に内定をもらったけれど、自分のような物語を作る才能のない人間がそんな仕事できるのかどうか…迷っている話をします。

 

そして、拓真は「引き寄せだ」と言って、綾子に『空の彼方』を手渡すのです。

 

綾子が考えた結末は、

絵美は物語を作りたいのか、作りたくないのか。
作りたいから、駅まで来たのだ。ならば、そのまま突き進み、電車に乗ればいい。(本文 p.181より引用)

そして、綾子は「わたしはおもしろい物語を作る人になる」と、剛生にメールし、彼のアドレスを削除するのです。

時を超えて

木水は、バイクで北海道を旅している40代の市役所職員です。

大学時代に、彼女に子供ができ、そのまま結婚しました。

木水は、そのとき生まれた娘の美湖が、アメリカで特殊造形の勉強したいと言い出しことに、反対してしまい、妻と共に娘は家を出て行ってしまいました。

 

木水は、本当なら、若いうちに、バイクでもっといろんなところに行ってみたいと思っていました。

そして、そんな若い頃の自分を思い出すために、この北海道旅行をしています。

 

そして、美湖と同年代の綾子と知り合い、同じ宿舎に泊まっていることを知り、共に夕食を取りながら、美湖の話をします。

そして、綾子は『空の彼方』を木水に手渡すのです。

 

木水が出した物語の結末は、

今ある問題は、目を逸らさずに、今、向き合うべきだ。堂々巡りの話し合いになってもかまわない。三日三晩続くことになってもかまわない。(本文 p.219より引用)

木水は、美湖がどんな気持ちで特殊造形の道に進みたいのか、しっかり納得がいくまで、美湖と話し合うことを決めるのでした。

湖上の花火

あかねは、現在42歳で、証券会社で課長職についています。

脚本家志望の修とつきあっていましたが、あかねが会社でキャリアを積み重ねていくうちに価値観が違ってきてしまい、結局、別れることになりました。

 

ある日、あかねが入院していたときに、修の名前でネット検索をしてみました。

『すずらん特急』という本が原作の2時間ドラマの脚本を、修が書いているのを知ります。

ドラマの中では、二人のちょっとしたエピソードも含まれていて…。

 

その日は、あかねは、出身校である北海道大学の恩師の退官を祝う会に出席するために、北海道に来ていました。

 

そこで、あかねは、写真を撮っていた木水と偶然出会います。

木水は、娘の美湖のことをあかねに話すうちに、『空の彼方』を手渡そうと考えます。

 

あかねの『空の彼方』の感想は、やや辛辣。

今まで、女性一人で証券業界という厳しい世界でもまれてきた女性らしいものです。

そして、あかねが考えた結末は、

それでも、絵美は電車に乗っていってしまうのだろう。夢を持たないあなたに、私の気持ちはわからない、と言って。(本文 p.262より引用)

絵美と自分が人生の一点で交わったことは間違いではなかったのだ、と少しばかり涙を流し、翌日からまた、同じ生活に戻るのだ。(本文 p.262より引用)

この結末は、まさにあかねと修自身のことです。

街の灯り

ワインとおつまみ

佐伯公一郎は、「ロイヤル札幌ホテル」で開かれた、友人の清原征四郎の退官記念パーティに出席しています。

北大時代の仲間、千川、松本も一緒でした。

 

公一郎は、定年退職後も高校教師を続けています。

この佐伯公一郎こそが、「ハムさん」だったのです。

そして、あかねもこの清原征四郎の退官記念パーティに出席していました。

 

当初、公一郎は、妻同伴でこのパーティに出席するつもりでしたが、孫の萌の不登校について意見が異なり、ボイコットされてしまったのです。

そして、パーティのあと、場を変えて親しい仲間だけで飲み直すことになっていた公一郎たちは、「北漁場」という居酒屋へ向かいます。

 

そこで、あかねが、この佐伯公一郎氏がハムさんであることを知り、『空の彼方』を清原を通じて手渡すことになります。

その原稿を読んで、公一郎は、これが妻が書いたものだと確信するのです。

 

そして、絵美も今、萌と共にこの北海道に来ているというメールが届きます。

旅路の果て

佐伯萌は、公一郎と絵美の孫娘。

萌も、文章を書くのが好きで、同じ趣味を持つ麻奈と仲良くなりました。

麻奈には、才能がありました。

萌もみていた、ある投稿サイトに「ガラスちゃん」という面白い小説を投稿していたのが、麻奈でした。

 

しかし、彼女に嫉妬した同級生に、萌はそのサイトのことを教えてしまうのです。

そして、サイトのコメント欄に彼女をいじめる同級生たちがわざと批判コメントを書いたことで、「ガラスちゃん」はサイトから削除され、麻奈は不登校になってしまいます。

 

麻奈が不登校になったのは、自分のせいだと思った萌自身も、同様に不登校になってしまいます。

そして、祖母と共に北海道旅行に来て、フェリーの中で、冒頭の智子に出会うのでした。

 

この原稿の実際の結末は、「ハムさんが、清原の伯父である出版社に勤める人物を絵美に紹介し、『すずらん特急』という本を一冊出版したが、売れなかった」なのです。

 

ハムさんは、無理やり連れ戻そうとはしませんでしたし、絵美にとって最善の方法で夢を叶えてやろうとしたのです。

それぞれの『空の彼方』

本書の中で、智子、拓真、綾子、木水、あかね…それぞれの立場から、『空の彼方』を読んだあとに、あらすじが書かれているのですが、それぞれの状況から、物語の中で強調される内容が異なっています。

同じ一つの小説でも、読む人によって最も印象に残る部分が変わってくるのは、とても興味深いところです。

結末のない物語につけた結末も、それぞれ。

 

しかし、結末は違えど、各々が自分の人生に納得できる決意をしています。

それだけでも、『空の彼方』が書かれた意味があったと思います。

最後に

湊かなえ著「物語のおわり」の感想でした。

それぞれが、最も納得できる前向きな結末を紡ぎだしていることに、とても感動しました。

しかし、誰の選択も、緩い道程ではなく、人生の道程は厳しいものであることが描かれているのも、素晴らしい。

今回、ほぼネタバレで感想を書きましたが、ぜひ未読の方は読んでみてください。

とても素晴らしい、おすすめの一冊です。

 

私も、『空の彼方』の結末を考えてみましたが、それはまた別の機会に…。