「犯罪者(下)」読書感想 著者 太田愛|佐々木邦夫の計画と目的とは?

一昨日の夜、太田愛著「犯罪者(下)」読み終わりました。

真崎省吾が、三億円をタイタスフーズに要求した理由とは…。

最後の最後まで何重にも重なる謎が解き明かされていく爽快さは格別です!

しかし、本当の意味での事件はまだ解決していません。

未読の方はややネタバレ含みますのでご注意ください!

「犯罪者(下)」 あらすじ

修司と相馬、鑓水の3人は通り魔事件の裏に、巨大企業・タイタスと与党の重鎮政治家の存在を摑む。そこに浮かび上がる乳幼児の奇病。暗殺者の手が迫る中、3人は幾重にも絡んだ謎を解き、ついに事件の核心を握る人物「佐々木邦夫」にたどり着く。乳幼児たちの人生を破壊し、通り魔事件を起こした真の犯罪者は誰なのか。佐々木邦夫が企てた周到な犯罪と、その驚くべき目的を知った時、3人は一発逆転の賭けに打って出る。

[引用元]角川文庫「犯罪者(下)」裏表紙

登場人物

繁藤修司
日榮建設に勤める作業員。深大寺駅前で起きた大量無差別殺人事件のただ一人の生き残り。
相馬、鑓水と共に事件の真相に立ち向かう。

相馬亮介
深大寺署の刑事。署では一匹狼的な立場。修司を助けるために深く関わる。
今回の事件で警察を辞める覚悟をしている。

鑓水七雄
相馬の友人で元テレビマン。現在はフリーライター。行動力ある伊達男。
滝川に家を吹き飛ばされ、事件について書くことも許されず、探偵事務所開業を準備中?

真崎省吾
産業廃棄物収運業者。妻も息子もすでに亡くしているという悲しい過去を持つ。
未だ遺体は見つからず。

中迫武
食品大手企業タイタスフーズの営業課長。メルトフェイス症候群の真実を公表する決意をしているが、大怪我を負ってしまう。

山科早季子
メルトフェイス症候群全国連絡会の代表。息子の翼がメルトフェイス症候群の患児。

服部裕之
与党重鎮・磯辺の私設秘書。冷静沈着で骨董品蒐集が趣味。

滝川
謎の男。プロの殺し屋。幼少期より殺人者として育てられた過去を持つ?

 

以下の記事は「犯罪者(上)」の感想です。

白昼の通り魔事件の真実ー「犯罪者(上)」読書感想 著者 太田愛

大切な手袋

時は少しさかのぼり、2005年3月15日。

深大寺駅前での通り魔事件の10日前、真崎省吾は、「フェリーこうち」に乗り、高知港に入りました。

そして、同じ日、タイタスフーズ本社では、佐々木邦夫の要求通り三億円を用意して佐々木の指示を待っていました。

小川奈津

真崎省吾は、旧友に会うため、高知にやって来たのです。

その日は、「高知クイーンズホテル」に宿泊することになっていました。

真崎は「谷本宏」の偽名を使って、予約していました。

すると、フロントには、昨日、フェリーの中でちょっと手助けをした若い女性がいました。

胸に付けたネームには「小川奈津」。

奈津は、真崎をみて「昨夜はありがとうございました」とうれしそうに言います。

真崎はそれを聞いて初めて、昨日の夜に会った娘だと気づきます。

奈津は、妊娠していて、フェリーの中で体調を崩し、真崎が少し手助けをした女性でした。

 

こういう小さな場面にも、真崎のとても親切で温かい人柄が見て取れます。

 

しかし、真崎は出来るだけ人に印象を残さないように行動していたので、そっけなく「いや」とだけ答えて、705号室に案内されました。

末沢瞬

奈津には、末沢瞬という同棲相手がいました。

奈津のお腹の父親です。

二人の給料を合わせてもわずかで、結婚して子供を育てることなどできないと、瞬は奈津に出産をさせないという選択をしたのです。

しかし、奈津は子供を産みたいと考えているようです。

そんな奈津に、瞬はいら立ちを隠せず、奈津にきつく当たってしまうのです。

 

その奈津が、「谷本宏」(真崎省吾の偽名)に愛想よく振る舞っているのが気に入らず、瞬は谷本に対して悪感情を抱き、谷本が出掛けている間に、谷本の手袋を盗みます。

黄緑色の小さめの手袋。

男性用ではなく、女性か子供用の手袋。

奈津に仲直りの贈り物にしようと盗んだのです。

 

しかし、この手袋は、真崎にとってとても大切なものでした。

中迫から雄太へと贈られたものでした。

もうすでに亡くなっている雄太へ、それを知らせていない中迫がくれたもの。

真崎は、中迫に妻も子供も、もうこの世にいないことを話していないのです。

 

この小さな黄緑色の手袋を盗んだことが、真崎にとっても自分達にとっても、大きな災いをもたらすことなど、このとき瞬は思ってもみなかったはずです。

三億円を受け取る方法

真崎は、ホテルの部屋で、23枚のクッション封筒にメモリースティックを入れ、それぞれにテレビ局などのマスコミ関係の住所を印字した送付票を貼り付けていました。

送付元は『谷本宏』です。

そして、高校時代の部活の仲間、杉田自動車工場を経営する杉田勝男に電話をします。

これらの封筒を、杉田に送り、四月四日の日付指定で送付を頼みます。

四月四日は、タイタスフーズの工場に検査が入る日です。

真崎は、この日まで自分が生き延びられないかもしれないと思っていたのです。

 

2005年3月17日。

真崎は、タイタスフーズに、三億円の送り先を書いた箱を三個口、現在空き家になっている家宛ての住所にして送ります。

真崎はタイタスフーズ本社から架空の送り先に届くまでの間に、三億円を手に入れる予定です。

荷物がどこかの集配センターに届いたら、そこで住所を間違えたと言って受け取りに行くというのが真崎の計画です。

品名は「祝い餅」。

この地方の結婚式の習わしで、お餅を配るのだそうです。

それなら、身分証明を必要としないだろうと真崎は考えたのです。

真崎省吾の最期

何とか、三億円を手に入れた真崎は、何気なくコートに手を入れて、雄太の手袋がなくなっていることに気づきます。

中迫が雄太のためにプレゼントしてくれた大切な手袋。

真崎は、お金を車に積んだまま、「高知クイーンズホテル」に引き返します。

部屋で鉢合わせして、慌てて外に出たホテル従業員「末沢瞬」というネームを胸につけた男から、手袋を取り戻すために。

「手袋を返してくれ」

瞬は、手袋を家に持って帰ってしまっていたため、取りに帰らなければならなくなりました。

途中で中抜けしたことで、支配人から「もう契約の更新はしない」と言われてしまいます。

 

こんな大切なところで、手袋を盗まれるなんて…。

ここで手袋を盗まれなかったら、この先の物語はもっと違う方向に向かっていたはずなのに。

しかし、真崎にとって、あの手袋は本当に大切なものだったのです。

 

真崎が手袋を取りにホテルの駐車場に車を止めていると、バッテリーが上がって困っている男がいました。

親切心で真崎が声をかけたその男こそが、滝川だったのです。

「簡単に死ねると思うなよ」

 

しかし、真崎はサンプルの在りかを決して白状せず、最期、笑っていたのです。

佐々木邦夫とメモリースティック

杉田に送るはずだったメモリースティックを、末沢瞬は勝手に開け、真崎への逆恨み(手袋を取りに家に帰ったのを咎められクビになる)から、705号室にいた滝川にチラつかせます。

そして、滝川を強請ろうとしたのです。

このメモリースティックと交換で、金を出せと。

 

奈津との将来を夢見て、強請をした末沢瞬も、あっけなく滝川の手によって亡き者にされてしまいます。

何の罪もない奈津と赤ちゃんも一緒に。

メモリースティックの中身

メモリースティックの中身は、ある動画でした。

そこには、タイタスフーズのベビーフード・マミーパレットのサンプルを廃棄している様子、それを見ていた5人の人間の顔がはっきりと映っていました。

メモリースティックの動画を観た服部は、ある事実に気がつきます。

目撃者5人と、その中の一人の少年(修司)が、真崎に何か怒って話しかけているのです。

真崎と少年がいっしょに動画に映っているということは、その動画を撮っている人間がいるということです。

 

そのもうひとりの男とは一体誰なのか。

もうひとりの男

もうひとりの男とは、杉田自動車工業の従業員・エミリオというブラジル人です。

彼は、この日から数日後にはブラジルに帰る予定になっていました。

このメモリースティックが公けになる前に、彼は何も知らずブラジルに帰っているのです。

 

真崎は、決して魔の手が及ばない人間を撮影者に選んでいたのです。

通り魔事件の原因

タイタスフーズと与党の重鎮・磯辺忠満の”傭兵”は、このメモリースティックの動画から目撃者の顔画像をズームして、5人を探し出します。

そして、3月25日。

駅前広間での惨劇が起こったのです。

実行犯は、滝川。

中迫と接触

修司、相馬、鑓水の三人が、中迫と接触します。

修司が駅前広間で刺された日、突然、修司の前に現れ「あと10日生き延びてくれ」と言ったフレームレスのメガネをかけた男性です。

そして、真崎と共に、タイタスフーズのベビーフードのサンプルがメルトフェイス症候群の原因であるということを公表しようとした人間。

佐々木邦夫の告発文と山科早季子

山科早季子は、メルトフェイス症候群全国連絡会の代表です。

佐々木邦夫の告発文は、早季子にも送られてきていました。

早季子は、「ドキュメンタリー21」というTV番組に出演したときから、さまざまな嫌がらせを受けてきました。

そして、早季子だけでなく、メルトフェイス症候群の子供を持つ母親たちは、それぞれに死ぬほど苦しんでいました。

そんな早季子は、告発文に書かれていた内容を元に、行政にタイタスフーズの立ち入り検査の要望書を提出していました。

 

早季子は、同じメルトフェイス症候群の子供を持つ母親たちと長い闘いを決意していました。

真崎省吾について

タイタスフーズの入社式が行われている会場のホテルに、中迫に電話がかかってきます。

電話の相手は、修司でした。

修司は、中迫に「来い。真崎省吾に会わせてやる」と言います。

中迫は指示通り、新宿発のあずさ2号に乗り、松本まで行きます。

滝川につけられていることを考え、出来るだけ人目につかないように、待っていた車に乗り込む。

それは、鑓水の車でした。

 

「真崎に会わせてやる」という一言で、修司も鑓水も真崎省吾の存在を知っていて、真崎がやろうとしていたことも知っているということでした。

 

車が止まったのは、山中の小さなロッジ。

そこには、相馬と修司がいました。

そこで、中迫は真崎省吾との関係、二人がやろうとしていたことについての全てを三人に話します。

 

そして、真崎が遺した資料から、真崎が三億円ものお金をタイタスフーズに要求したのは、メルトフェイス症候群の子供たちとタイタスフーズが裁判で戦うための費用だったことがわかります。

 

やはり、真崎省吾は、お金のために中迫を裏切ったのではなかったのです。

中迫には妻子がいます。

そして、真崎にはもう誰もいないのです。

そのため、三億円の強請には巻き込みたくなかったのだと、三人は思い至ったといいます。

すべてを立証し金を取る方法

鑓水は、タイタスフーズと磯辺の隠蔽工作、通り魔殺人、真崎の殺害の全てを実証し、お金も取る方法があると言います。

鑓水の計画は少し詐欺に近いやり方でしたが、修司、相馬、鑓水、そして中迫がそれぞれの役割を決め、決行することを決めました。

 

鑓水の計画とは、どんなものなのでしょうか。

滝川という男

滝川は、真崎の最期のとき、「笑った」ことについてずっと心を支配されています。

なぜ、真崎はあの苦しみに耐えてまで口を割らず、最期に笑ったのかがわからなかったのです。

真崎がタイタスフーズに、恨みがあったとは思えず…。

 

滝川は、自分のターゲットを確実に仕留めるためにあらゆる手を打つことにしています。

お金で動く人間にはお金をチラつかせ、ターゲットの弱みを握り、ターゲットの人間関係を把握します。

 

滝川は、自分達当事者以外に、相馬、鑓水、修司は、あまりにもこの件について知りすぎていると感じています。

どこからも、この件が漏れないように、この三人を仕留めなければならないと思っています。

 

松本から帰って、鑓水のマンションに戻って来た三人を待っていたのは、鑓水のマンションの爆破。

それにより、相馬が負傷してしまいます。

 

しかし、三人は、計画は予定通り行うことを決めます。

磯辺満忠の上級国民意識

磯辺は、自分をいわゆる「上級国民」だと思っています。

彼は、本書の

「この国の人間は幼い子供と同じだ。~」(p.217~218)

から始まる言い草には、怖ろしい持論が展開されています。

 

磯辺はタイタスフーズのベビーフードが原因のメルトフェイス症候群のことも「たかが赤ん坊の食い物ごときで」と考える怪物です。

そのため、真崎省吾がやろうとしたことなど、全く理解出来ないのです。

 

大企業が発生させた、メルトフェイス症候群という病気から子供を救うために命をかけるなど、一体何の得になるのか。

上の者に逆らったことで、怒りを買い、命を落とす。

真面目に黙って働いていれば、守ってやったのに。

 

この磯辺に返す鑓水の言葉が、本当にカッコいいです。

タイタスフーズ立入検査

2005年4月4日。

タイタスフーズ立ち入り検査の日。

森村専務の記者会見

タイタスフーズの専務・森村は、自分のことだけがかわいい保身の塊です。

全てを知っているにもかかわらず、記者会見で、佐々木邦夫から送られた怪文書はすべて事実無根の悪質な嫌がらせだとし、ベビーフードのサンプルも廃棄済みであり、調べようがないと、真向から否定します。

とにかく、森村はこの一連の事件に関して、全て隠蔽し自分の身を守ることだけを考えています。

風向きが悪くなると、なぜ「よってたかって自分の人生をぶち壊そうとするのか」と、まるで子供のような考えしかないのです。

 

本当にどれだけ自分のことだけしか考えられないのか、こういう人間が上にいるタイタスフーズの質が知れると言うものです。

中迫は組織の中の『良心』

修司は、報道陣に囲まれ、TVに映る磯辺を観ていて、いつも寄り添っている側近の服部がいないことに気づきます。

次の動きの準備なのか、それとも他の行動をしているのか。

この裏で、服部は滝川を中迫の元へ送り込んでいたのです。

磯辺の電話番号を、佐々木邦夫が知っていたことに疑問を持ち、中迫を疑ったようで…。

 

滝川に追い詰められた中迫は、このままむざむざと命を奪われる気はなかったのです。

そして、自ら自社の工場の倉庫屋上から身を投げたのです。

 

相馬も一人の組織(警察)の中の人間として言います。

中迫は、組織の中の良心だった。

だから、真崎は中迫の命を守りたかったのだと。

滝川との対決

相馬、鑓水、修司の三人が動き出す一方、鑓水の計画の中にあったのはTVで「滝川の逮捕を生放送する」。

ここには、TVクルーたちの裏での攻防があります。

ここも読み応えがありますので、ぜひ、本書を読んで確かめてみてください。

 

そして、修司たち三人と滝川の息詰まる闘いが始まります。

滝川は、ヒットマンとしての腕と頭脳には、驚かされると共に背筋が寒くなります。

この滝川と三人の手に汗握る攻防を、ぜひ読んでみてください!

最後に

太田愛著「犯罪者(下)」の感想でした。

本書の主な登場人物である相馬、鑓水、修司の三人は、太田愛著「幻夏」「天井の葦」にも登場します。

シリーズ化されているのです。

本書は、その第一作となります。

とにかく、ギリギリまでドキドキさせられ、小説の終わり方が爽快です。

上下巻併せて、1000ページという長編ですが、本当におもしろいのでぜひ読んでいただきたい作品です!