「犯罪者(上)」読書感想 著者 太田愛|白昼の通り魔事件の真実

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、太田愛著「犯罪者(上)」を読み終わりました。

読み応えある社会派のミステリーです。

土木作業員の青年・修司はなぜ通り魔に襲われたのか?

未読の方はややネタバレ含みますのでご注意ください!

「犯罪者」(上)あらすじ

白昼の駅前広場で4人が刺殺される通り魔事件が発生。犯人は逮捕されたが、ただひとり助かった青年・修司は搬送先の病院で奇妙な男から「逃げろ。あと10日生き延びれば助かる」と警告される。その直後、謎の暗殺者に襲撃される修司。なぜ自分は10日以内に殺されなければならないのか。はみだし刑事・相馬によって命を救われた修司は、相馬の友人で博覧強記の男・鑓水と3人で、暗殺者に追われながら事件の真相を追う。

[引用元]角川文庫「犯罪者(上)」裏表紙

登場人物

繁藤修司
日榮建設に勤める作業員。18歳。深大寺駅前で起きた大量無差別殺人事件のただ一人の生き残り。

相馬亮介
深大寺署の刑事。署では一匹狼的な立場。修司を助けるために深く関わる。

鑓水七雄
相馬の友人で元テレビマン。現在はフリーライター。行動力ある伊達男。

真崎省吾
産業廃棄物収運業者。悲しい過去を持つ。

中迫武
食品大手企業タイタスフーズの営業課長。自身の正義感と組織の一員であることの間で苦悩する。

駅前広場での大量無差別殺人事件

2005年3月25日、金曜日。

これから起こる怖ろしい事件の始まり。

事件の発端

繁藤修司は、先日クラブで知り合った美少女・亜蓮から呼び出され、待ち合わせ場所の深大寺駅南口の駅前広場の噴水周りにやって来ます。

平日の午後2時。

修司以外には、地味なスーツを着た女性、上品な老婦人、商店主風の男性、女子大生の4人。

のどかな平日の昼下がりのことです。

それが一転。

全身エナメル地の服と靴を身に着け、フルフェイスのヘルメットをかぶった男が現れます。

そして、商店主風の男性、女子大生、上品な老婦人、地味なスーツを着た女性を次々と出刃包丁で刺し殺していったのです。

修司は、わき腹を刺され噴水の中に落ちましたが、命を奪われることはありませんでした。

5人の被害者の中では、たった一人の生存者でした。

 

亡くなったのは、久保印刷店店主・久保忠(55)、西都大学二年生・竹下美里(20)、主婦・今井清子(76)、主婦・間宮裕子(34)。

一見共通点のない5人

深大寺駅前南口の噴水周辺にいた被害者5人は、その場にいたときから言葉を交わすこともなく、お互い見ず知らずの他人であったと思われます。

ただ、5人ともがその場で誰かを待っていたようです。

しかし、この5人には「ある共通点」があったのです。

犯人確保

事件発生からすぐ、犯人が捕まります。

現場から目と鼻の先、深大寺駅西側の雑居ビルのトイレで、覚せい剤の過剰摂取で既に死亡していました。

 

しかし、修司には犯人がどうしても薬物中毒者であるとは思えなかったのです。

襲われたときの感覚で、あいつは正気だったと。

わき腹を刺された修司は、病院で手当てを受けていました。

そこに相馬が現れ、いくつかの質問の後、修司は「俺は警察が嫌いなんだ」と言ってしまいます。

修司は、過去のある経験から警察に対して大きな不信感を抱いていました。

 

修司は、入院の必要がなかったので、家に帰ろうと通用口に向かいます。

すると一人の男が血相を変えて飛び込んできます。

フレームレスのメガネをかけ、上質なスーツを身に着けた男でした。

そして、修司に

「あと十日。十日、生き延びれば助かる。生き延びてくれ。君が最後の一人なんだ」(本文p.42より引用)

と言い残し、去っていきます。

修司と相馬・鑓水の出会い

これから行動を共にする修司、相馬、鑓水の出会いです。

目出し帽の男に襲われる

修司は、一日半ほど友人の三宅の家で身を隠したあと、自宅に戻ります。

そして、その日、修司の家に入り込んできた「目出し帽の男」にいきなり後ろから首を絞められたのです。

そこにちょうど、修司の父を訪ねた後の相馬が、やって来ます。

修司の部屋の窓のカーテンが風に揺れているのを見て、相馬は修司の部屋に飛び込みました。

「警察だ!」

 

飛び出してきた目出し帽の男は、両手利きで、バネのような身体能力で相馬を殴り、相馬が痛みに苦しんでいる間に、逃げていきました。

修司は、何とか助かります。

そしてこう言うのです。

「あいつ、昨日の通り魔だ」(本文 p.88より引用)

鑓水の家へ

目出し帽の男は、どう見ても殺しのプロでした。

相馬は、修司をタクシーに乗せ、鑓水の家に向かいます。

修司を鑓水の家で匿(かくま)ってもらうためでした。

鑓水は、しばらく会っていない相馬の友人です。

修司は、高校生の頃、あくどい警察官にひどい目にあわされ、幼馴染の大切な友人を失っていました。

そのため、警察を信用していません…。

 

そして、修司は鑓水の家で匿われることになりました。

大手食品会社・タイタスフーズの秘密

大企業と政治家がつながっていることは、現実世界にもよくある話です。

タイタスフーズは、与党議員の重鎮・磯辺満忠に様々な便宜をはかってもらっていました。

勿論、タイタスフーズから磯辺にお金が流れているのです。

タイタスフーズのベビーフード

タイタスフーズがベビーフードの販売を始めることになります。

ちょうど同時期、ライバル社が同様のベビーフードを販売することが判明します。

タイタスグループ会長・富山は、政府の認可をライバル社より早く下りるように磯辺に頼んでいました。

 

出来るだけ早くサンプルを配り、アンケート調査をするために、タイタスフーズは禁忌を犯してしまいます。

タイタスフーズは、原材料や衛生管理に関しては完全システム化されているのですが、今回のベビーフードについては、磯辺に特別な取り計らいをもらっています。

さらに、創業者である富山肝いりの商品販売のため、検査に通っていない材料を使ってしまったのです。

どうしてもニンジンが手に入らなかったのです。

それが、「メルトフェイス症候群」という乳幼児を襲う恐ろしい病気を生み出してしまうことになったのです。

メルトフェイス症候群

タイタスフーズのベビーフードサンプルに混入していた「バチルスf50」という新種の芽胞形成菌のせいで起こる病気を、「メルトフェイス症候群」※といいます。(※架空の病気です)

乳幼児の顔の半分が溶けたように崩れていく、怖ろしい病気です。

見た目もさることながら、その痛みは包帯を交換するだけで痛みに泣き叫ぶほどです。

そして、患児は、奪われた顔の再建手術、嚥下障害、一生逃れられない突然死の恐怖に、日々さらされているのです。

「ドキュメンタリー21」に出演した山科親子

山科早季子の息子の翼は、メルトフェイス症候群に罹患しています。

早季子は翼と共に、以前鑓水が勤めていたTV局の報道番組「ドキュメンタリー21」に顔出しで出演しました。

この病気を、もっと知ってほしいと考えての決断でした。

山科早季子は、メルトフェイス症候群全国連絡会の代表を務めています。

タイタスフーズとメルトフェイス症候群

そして、このメルトフェイス症候群が、タイタスフーズのベビーフードが原因で起こった病気だということを気づいたのは、タイタスフーズの営業課長・中迫です。

ベビーフードのサンプルを、保育園や託児所などに配布する業務を行っていた本人なのです。

彼は、タイタスフーズの幹部と違い、正義感のある人間です。

そして、中迫には喘息に苦しむ娘がおり、子供の病気についての不憫さを知っています。

 

この病気と修司が命を狙われることには、どんな関係があるのでしょうか。

追い詰められるものたち

修司は、鑓水と相馬に匿われてはいますが、自分で「自分の命がなぜ狙われるのか」を調べています。

相馬には、じっとしていろと言われるのですが…。

追い詰められる修司

常に目出し帽の男に用心しながら、修司は行動しなければなりません。

しかし、目出し帽の男は、様々な手を使って修司を追い詰めていきます。

もう、ダメだと思うところまで追いつめられては、相馬と鑓水に助けられる修司。

彼は、四月四日まで生き延びることが出来るのでしょうか…。

中迫と真崎省吾

中迫は、タイタスフーズの幹部らから残っているベビーフードの廃棄を命令されます。

しかし、この残っているベビーフードのサンプルを廃棄してしまうと、メルトフェイス症候群の原因である証拠がなくなってしまうのです。

 

ある雨の日、中迫は、真崎省吾に再会します。

真崎省吾とは、病院が主催する喘息の子供を持つ父親の研修会でいっしょになって以来、親しくしている男性です。

真崎は、産廃業者です。

そして、中迫は廃棄を命令されているベビーフードの保管を真崎に頼むことにしました。

 

中迫は、真実を公表するつもりです。

マスコミや新聞社、関係機関に、ベビーフードのサンプルを検査し、バチルスf50菌が入っている事実を記した告発文を送ることを計画する真崎と中迫。

二人はその「共犯者」となるのです。

しかし、真崎はその中迫を裏切り、「事実を公表されたくなければ三億円出せ」とタイタスフーズを脅迫します。

サンプルをもっているのは真崎なので、タイタスフーズがお金を出せば、メルトフェイス症候群の原因は闇に葬られてしまうのです



真崎は、なぜこのようなことをするのでしょうか。

やはり、人間、お金なのか…。

 

このことをもとに、この先のそれぞれの人生が、大きな運命の波に飲み込まれていくのです。

無差別殺人の理由

相馬は、印刷店店主の久保忠、上品な老婦人の今井清子、主婦の間宮裕子について、修司は年齢の近い女子大生の竹下美里について調べます。

この人たちがなぜ死ななければならなかったのか。

近所でも有名人だった今井清子のことは、久保の妻・尚江は知っていましたが、それ以外にこの4人のつながりが見当たりません。

それは、修司も同じことです。

警察を動かさないために

修司と殺害された4人は、全員が近隣住民でした。

目出し帽の男は、四月四日までにこの5人を殺害しなければならない。

なぜ、こんな目立つやり方で事件を起こしたのか。

しかし、鑓水は、これは最も目立たない方法だと言います。

こんな近くに住んでいる人たちが、一人づつ殺害されると、「深大町連続殺人事件」として捜査本部が立ち上がり、警察が多くの捜査員を投入して捜査するはず。

しかし、通り魔殺人なら…。

そして、犯人は死んだことになっているとしたら…。

 

しかし、修司は目出し帽の男があのときの通り魔だと確信しています。

死んだ男は、真犯人の身代わりになったということです。

5人が同時に見たもの

5人の共通点を考えると、見えてくるものがありました。

修司と相馬が、それぞれ調べた被害者の習慣の中にヒントがありました。

そして、ある一日だけ5人が同時に同じ場所にいたことがわかります。

そこにあったものは…。

真崎省吾の過去

真崎省吾には、妻子がいました。

真崎は、産廃業者として独立するためにきれいな仕事ばかりをしていたわけではありません。

ただ、子どもが生まれてからは息子に恥ずかしくないようにと、正当な仕事をしてきました。

 

しかし、ある朝、真崎のためにコーヒーを買いに行った妻が交通事故で亡くなり、息子の雄太も一人のときに喘息の発作を起こして亡くなっています。

真崎には、もう失うものが何もありません。

そんな真崎が、タイタスフーズの中迫と共にベビーフードがメルトフェイス症候群の原因であることを公表しようとすることまではわかります。

しかし、真崎はなぜタイタスフーズを脅し、三億円ものお金を要求したのでしょうか。

最後に

太田愛著「犯罪者(上)」の感想でした。

修司が危うく殺害されそうになるシーンは、本書の読みどころでもあるので、詳しく解説はしませんでした。

そして、真崎の要求した三億についても、上巻では理由を明らかにされていません。

本書は、情景描写が精緻なので、目の前に映像のようにその場面が浮かんできます。

臨場感たっぷりです。

引き続き、下巻を読んでいきたいと思います。