『第三の時効』感想 著者 横山秀夫|警察小説の最高峰

こんにちは。

はるき ゆかです。

 

昨日の夜、横山秀夫著「第三の時効」読み終わりました。

事件現場の緊迫感と刑事たちのプライドと正義感が交錯する警察小説の最高峰と言われる作品です。

人間模様と共に、ストーリーの繰り返されるどんでん返しに読む手が止まりません。

「第三の時効」 あらすじ

殺人事件の時効成立目前。現場の刑事にも知らされず、巧妙に仕組まれていた「第三の時効」とはいったい何か!?刑事たちの生々しい葛藤と、逮捕への執念を鋭くえぐる表題作ほか、全六篇の連作短編集。本格ミステリにして警察小説の最高峰との呼び声も高い本作を貫くのは、硬質なエレガンス。圧倒的な破壊力で、あぶり出されるのは、男たちの矜持だ__。大人気、F県警強行犯シリーズ第一弾!

[引用元]集英社文庫「第三の時効」裏表紙より

F県警強行犯捜査第一課一係通称「一班」班長・朽木、「二班」・楠見、「三班」・村瀬、各班長を中心に様々な事件を解決に導きます。

それぞれの班長同士、部下たちの緊迫したやりとりと、ときには人情味あふれる警察小説の最高峰と言われる作品です。

沈黙のアリバイ

あらすじ

強盗殺人事件の被告・湯本直也の初公判の日。

取り調べは難航したが、何とか自白は取れている。

しかし、取り調べを担当した一班の島津は、その日、虫歯で顔が大きく腫れあがっていた。

島津の代わりに班長の朽木が、裁判に向かう。

ところが、罪状認否で湯本は自白を翻し、アリバイがあると無罪を主張したのだ。

取り調べ中の録音テープは、長期間の取り調べに疲れ果て、無理やり自白させられたようなもので、それは湯本が無罪を勝ち取るための芝居だったのだ。

数日後、島津が辞表を提出し…。

感想

狡猾で怖ろしい犯人です。

自白したと見せかけて、取調官の島津を陥れます。

そして、当初、逮捕された事件の内容より、さらに凶悪な犯罪も犯しています。

警察の取り調べの難しさやこれほどまでに、表の顔と「皮下の顔」が違う人間に対峙する取調官の苦悩は想像を絶するものがあります。

 

また、この最初の一篇の中で、一班の班長・朽木の過去のある事故により負ったトラウマが描かれています。

このトラウマが、朽木にとってそのあとの事件にも影を落とします。

第三の時効

あらすじ

15年前、タクシー運転手・本間敦志の妻・ゆき絵が、エアコンを取り付けに来た電気店の男にレイプされ、それを目撃した夫と犯人が揉み合いになり、夫が殺害されるという事件がに起こった。

犯人と妻は、もともと幼馴染であった。

そして、その殺人事件の時効が迫って来ていた。

しかし、犯人の電気店店主・武内は、事件後、台湾に7日間渡航していたため、その間の時効は停止していたが、警察はそのことを武内が知っているかどうかに賭け、妻の本間ゆき絵の家で武内から連絡が来るのを逆探知をセットして待っていた。

本当の時効は7日後で「第二の時効」である。

それでは、「第三の時効」とは…?

感想

本書の表題作ともなっている「第三の時効」。

今回の事件を担当するのは、元公安の楠見班長率いる強行犯捜査二係通称「二班」です。

楠見は、冷徹で何故か女性というものを信用していないのです。

部下からも「冷血」と呼ばれています。

 

ゆき絵には、娘がいて、血液型や耳の形などから、娘が夫の子ではなく、武内にレイプされたときに出来た子だとわかっています。

そのため、時効成立後、必ず武内から連絡があるはずだと警察は踏んでいるのです。

第一の時効のあと連絡はなく、武内は真の時効は7日後だと知っているようです。

 

今では殺人事件の時効はなくなりましたが、時効があった頃は、このような緊迫した状況が実際に存在したのだということを想像すると読んでいても、緊張感でいっぱいになります。

しかし、本作の見どころは、そこではないのです。

「女の狡さ」を、同じ女性として、嫌というほど思い知らされます…。

事件は、二転三転します。

そして、想像の遥か上を行く事件の結末に、読者は心底驚かされます!

囚人のジレンマ

あらすじ

F県警捜査第一課長・田畑昭信は、現在、三つの事件を背負っている。

今月三日に発生した主婦殺し、その二日後に起きた証券マン殺傷事件、その三日前に発生した調理師殺しの三件である。

さらに、田畑は三人の班長が、独断で捜査を行うことに苦悩していた。

そして、マスコミ対応にも日々追われているのである。

 

三つの事件は、主婦殺しを朽木率いる一班、調理師殺しを楠見率いる二班、証券マン焼殺事件を村瀬率いる三班が担当してる。

一見、独立した一つの事件に見えるこの三つの事件が…。

感想

ネタバレになってしまうので、感想もあまり詳しくは書けないのですが、この一篇は、本当にすごいです。

ほぼ同じ時期に起こった三つの事件をそれぞれの班が担当するのですが、実は…。

そして、砂漠のように殺伐とした雰囲気の捜査第一課強行犯係ですが、実は刑事たちのあたたかい心が通い合った部分を垣間見れる素敵なストーリーになっています。

事件の手柄を立てるために、班同士または班の中でも、お互い対立したり競い合っているのですが、刑事たち全員が犯人逮捕という一つの大きな目標を目指し、さらに刑事として長年勤めた先輩刑事への尊敬の念に溢れる熱い想いが伝わって来ます。

私自身は、本書の6篇の中で、最も好きなのがこの一篇です。

密室の抜け穴

あらすじ

事件はゴールでウィークに見つかった白骨遺体で、遺留品はワンピース、カーディガン、ピアスなどから、被害者は女性であるとされている。

直感的な「動物的カン」の持ち主の村瀬の第一声は「マル暴の仕業っぽいなあ」

そう言ったあと、村瀬は病に倒れ、入院する。

 

東出は、現在、村瀬の代わりに、三班の班長代理を務めている。

そして、今は「一体誰のミスで密室から犯人を取り逃がしてしまったのか」を会議中であったが、そこに再起不能ではないかと言われていた村瀬が、突然現れる。

 

事件の被害者は三村多佳子、当時23歳の風俗嬢。

犯人は、村瀬の第一声による暴力団組員と同等の粗暴な内面の持ち主とし、捜査が行われた。

捜査線上に上がってきたのは「鷺下組」の早野誠一。

早野のマンションを四方から取り囲み、張り込みする捜査員たち。

しかし、早野はマンションを抜け出したというのだが…。

感想

本篇も、ネタバレしてしまうので詳しくは書けませんが、結末は驚くべきものです。

病に倒れた村瀬班長の動物的カンだけではない、洞察力のすごさと部下の東出に何かを感づかせようとする言葉に感動すら覚えます。

そこでそうなっていたのか…と、想像もできない結末です。

ペルソナの微笑

あらすじ

朽木班長率いる一班の若手・矢代勲は、お調子者でいつも笑っている。

矢代の手柄となった特定郵便局長殺害事件の打ち上げの席でのこと、田畑課長に青酸カリによるホームレス殺害事件の連絡が入った。

F県警の刑事たちが青酸カリに敏感に反応するにはわけがあった。

13年前に、子供を「道具」につかった青酸カリ殺人事件があったからだ。

被害者は債権を取り立てる仕事をしており、妻は食堂で働くかなりの美人で、その二人の息子が「道具」として使われたのだ。

時効まであと二年。

そして、矢代自身も、子供の頃、ある犯罪の「道具」として使われたことがあり…。

感想

子供を犯罪の道具に使うとは、なんて卑劣なことか。

そして、後々までその子供たちの心に大きな傷を残すことになります。

いつも仮面を被っていなければならなかった二人の青年の気持ちが、読者の心に重くのしかかってきます。

矢代刑事がいつか心から笑える日が来るように…と思う反面、この笑顔が刑事として大きく役立っていることもまた事実なのです。

モノクロームの反転

あらすじ

W市深見町の民家で、一家三人刺殺事件が起こる。

被害者は弓岡雄三・洋子夫妻とその息子・悟。

 

田畑課長は一家三人殺害という大きな事件であることから、一班と三班を両方、捜査に出している。

対立することは、確実だった。

しかし、お互い対立しながらも、捜査は進んでいき、写真の専門学生である目撃者も現れる。

容疑者は洋子の同級生の男二人が浮上するのだが、専門学生の目撃情報からするとどちらが犯人なのか決め手がなく…。

感想

一班と二班の対立が、一見、捜査を混乱させているようで、実はうまく回っていることに気づきます。

この一篇でも、被害者の洋子という女性がキーパーソンとなっています。

そして、洋子はとても美しい元学園のマドンナなのです。

容疑者は、洋子の同級生で、かつて二人は洋子に恋をしていました。

その恋心が殺人に発展してしまったようです。

 

この作品では一班と三班の対立を軸にストーリーが展開しますが、一班の朽木班長の過去のトラウマが再度描かれており、彼が笑わない理由を、読者はまた思い出してしまうのです。

最後に

横山秀夫著「第三の時効」の感想でした。

ミステリー小説の中には、途中で犯人の予想がつくものがありますが、本書は違います。

全6編の連作短編集ですが、どの作品も結末が想像できないものばかりです。

しかし、タイトルにヒントが隠されていることを読み終わって初めて気づきます。

最近読んだミステリー小説の中でも、本書は特におすすめの一冊です!