『アンソロジー捨てる』感想|『捨てる』に関する9つの物語

こんにちは。

はるき ゆかです。

「捨てる」をテーマにした9人の女性作家が紡ぐミステリー。

怖い、面白い、あたたかい…ストーリーたちです。

箱の中身は 大崎梢

あらすじ

小さな少女と写真館の青年の物語。

少女は小さな箱を手に持っていて、母親にそれを今すぐ捨てて来いと言われているらしい…。

感想

小さな箱に入っているのは、可愛い思い出の品。

しかし、母親はそれをあまりよく思っていないようです。

丁寧な仕事をする青年だからこそ、気づいてあげられた優しい物語です。

蜜腺 松村妃呂美

あらすじ

先物取引に憑りつかれた姑と、嫁の物語。

夫は、そんな母の莫大な借金を返すために自らの命を絶ってしまう。

それにも関わらず、姑は先物取引をやめようとしない。

嫁の田崎梓は、パート先でも意地悪な女性上司に悩まされ、息子も家を出ることになり…。

感想

嫁姑問題は、世間にはいくらでもあることなのかもしれません。

しかし、この姑は、本当にどうかしています。

読んでいて本当にイライラさせられます。

ある意味、ギャンブルと言ってもいい先物取引に憑りつかれて、金の亡者になっている姑。

梓の闇の深さが、怖く悲しい物語です。

捨ててもらっていいですか? 福田和代

あらすじ

祖父の遺品整理を行っていた親子、孫の朱里と淳樹とその母です。

しかし、様々な品に思い出を語り合っているときに見つけた祖父の秘密の「宝物」。

これをどう処理したものか、迷う親子にミリタリーオタクの青年が絡んできて…。

感想

平和に暮らしていた親子の前に突然、非日常的な遺品が現れて、かなり焦るところがユーモラスに描かれています。

ここに朱里の幸せなエピソードが盛り込まれていて、このエピソードに、こちらもちょっとホッとします。

私にも亡くなったときに、遺族が捨てるのをためらいそうなものがいくつかあるので、少し早いですが、今から断捨離していこうと強く感じた物語でした。

forget me not 篠田真由美

あらすじ

母親が急逝して、遺品整理を行っていた主人公の「私」は、ある小さな箱を見つける。

それが何なのかわからない。

そこで、ある骨董品屋にそれを持っていく。

それは「忘れな壺」というものだと聞かされて…。

感想

親子でも知らないことはいくらでもあります。

私自身も、母を亡くしていますが、まだ遺品整理が完全に終わったわけではありません。

しかし、母の高校時代の日記帳を見つけたときは何となく捨てるに捨てられない…それに、小さな鍵付き日記だったので、中を読むことも出来ない…。

いや、そんな鍵など壊すことはたやすいことです。

だけど、そういうわけにもいかなくて…その気持ちと似たものを感じた物語でした。

四つの掌編 光原百合

あらすじ

4つの掌編が収められている。

「戻る人形」
主人公の「俺」は、昔付き合っていた女性からもらった手作りの人形を持っていた。そして、彼女には何の未練もなく、人形も捨ててしまう。しかし、人形は何度捨てても彼の部屋に戻って来る…。

「ツバメたち」
オスカー・ワイルドの「幸せの王子」をモチーフにした作品。
幸せの王子の本当の目的とは?

「バー・スイートメモリーへようこそ」
一組の男女の思い出。おしゃれで小粋なストーリーです。

「夢捨て場」
今日は仲間の怜の送別会。お酒によった主人公の圭が、何かに引き寄せられるように辿り着いた場所。それが「夢捨て場」だった。様々な人が圭の目の前で夢を捨てて行く…。

感想

「戻る人形」はミステリーというより、ホラーに近い物語です。

結末は背筋がゾッとします。

「ツバメたち」は、オスカー・ワイルドの『幸せの王子』です。

美しい心を持った王子の像と健気なツバメの物語として有名です。

しかし、王子の目的は貧しい人々を救うことではなかったのではないか?という現実を突きつけられる物語です。

読み終わったとき「え?…」と少し絶句してしまいます。

「バー・スイートメモリーへようこそ」は、一組の男女の別れの物語です。

しかし、その思い出はとても甘く美しい思い出です。

おしゃれで小粋な掌編です。

「夢捨て場」は、切ないけれど美しい物語です。

何かの夢を持って生きている人々が、ある日その夢を捨てる日が来たときに、その夢はどこに捨てればいいのでしょうか。

その場所が、もしかしたら都会の片隅にあるのかもしれません。

以前に同じ種類の小説を読んだことがあります。

それは夢ではなく、本や老人などを捨てるというもっと恐ろしい現実でしたが。

お守り 新津きよみ

あらすじ

主人公の河合純子は、母方の祖母が大好きだった。そんな祖母には、何か不思議な力があるようだった。

純子は祖母からお手製のお守りを手渡される。中身は茶色い砂だった。

そのお守りは一生効果が続くものだと言われ、純子は事あるごとにそのお守りにお祈りし、小さな願いが叶えられていく。

それが、中学の同窓会で石丸夏美に再会してから、茶色い砂が真っ白の砂になっていて…。

感想

不思議な力を持った祖母が、愛する孫に幸せを送る心温まる物語です。

誰もが一度は神社でお守りを買い、願いを掛けたことがあると思います。

お守りの効果は一年だけだと言われていますし、願いが叶えばお礼参りをしてお守りを返します。

しかし、純子が祖母から手渡されたお守りは一生永遠に効果があると言われます。

そして、それを信じ、純子はいつも救われてきます。

それはあまりにも大きすぎる願いではなく、自身の努力があれば叶う願いであったのかもしれません。

自分を信じることが「お守り」となるのかもしれないと思わせてくれる物語です。

ババ抜き 永嶋恵美

あらすじ

3人のベテランOLの駆け引きの物語。主人公の「私」と三枝、金井の3人は、社内で『三ババ』と呼ばれている。

毎年恒例だった女子社員だけの社内旅行も、今年集まったのはこの3人だけだった。

そして、それは台風の夜だった。

3人で「ジジ抜き」(三ババでババ抜きをしてもしゃれないならないから)をして、負けた人が一つ秘密を打ち明けるという罰ゲームをすることになって…。

感想

怖いです…。

会社の同僚は、あくまでも同僚であって、学生時代の友達とは一線を画すものがあります。

まして「三ババ」と呼ばれる3人には、それぞれ思うところがあって、実はこの旅行にはとても怖い計画が隠されています。

そして、何より怖いのが主人公の「私」…。

最後の一行で、読者がいろんな想像を膨らませる怖さたっぷりの短編です。

幸せのお手本 近藤史恵

あらすじ

主人公の樹里は、小さな幸せを求めている平凡な女性。夫は優しく、仕事も順調だった。

父方の祖母が、樹里の幸せのお手本だった。

年をとっても仲の良かった祖父と祖母。将来は、お料理上手で優しい祖母のようなおばあちゃんになりたかった。

それが、ある日をさかいにして、樹里の幸せのほころびが見え始めて…。

感想

幸せそうに見えている人も、実はそうではなかったということはよくあることです。

私自身の近くにも、とても仲のいい夫婦だった(だと思っていた)人が突然離婚したり…という経験があります。

私にとっては、それこそ幸せのお手本のような人だったのに。

人の人生というのは、本当にその人にしかわからない苦しみがあるものです。

それは、もちろん、私自身にも。

花子さんと、捨てられた白い花の冒険 柴田よしき

あらすじ

主人公の園田花子は、名前の通り趣味が小さなベランダでお花を育てること。

夫はプロのスポーツ選手。いつどうなるかわからない夫の仕事だけれど、彼を支えようと頑張っている。

ある日、ベランダから見えたある人の行動がきっかけで、重大な事件に関わることになって…。

感想

とても可愛いミステリーです。

仲のいい若い夫婦の幸せそうな日常がほっこりします。

しかし、二人はある日陰惨な事件に関わることになります。

花子の名探偵ぶりが素晴らしい短編です。

最後に

「アンソロジー捨てる」の感想でした。

人気の女性作家9人の傑作ミステリー集です。

連作ではなく、それぞれが独立した作品を集めたアンソロジーです。

各作家の持ち味を楽しむことができるおすすめの一冊です。