『穴』感想 著者 小山田浩子|平凡な日常の中に見え隠れする異界

こんにちは。

はるき ゆかです。

先ほど、小山田浩子著『穴』読み終わりました。

第150回芥川賞受賞作の表題作と他二編の短編です。

短編二作は連作となっています。

『穴』 あらすじ

夫の転勤先が、夫の実家がある田舎の近くであったため、あさひは仕事を辞めてその地に移り住むことになった。住む場所を求めていると、義父母の持ち物である借家に家賃なしで住めることになった。

専業主婦となったあさひの毎日は、派遣社員として働いていたときに比べ、とても暇になってしまった。

ある日、あさひは、働く義母のおつかいの途中で、見たこともない「黒い獣」を見た。その「黒い獣」を追いかけていると、得体のしれない「穴」に落ちてしまう。

そして、夫の家族、その隣人たちは、何かがおかしい…。

田舎が怖い

田舎の風景

先日、ネットの記事で見た「ある田舎町の話」を読んで、軽くショックを受けたところで読んだ本書。

とてもタイムリーでした。

そのネット記事の概略は、都会暮らししかしたことがない女性が、ある田舎の村出身の男性と婚約し、その村の「しきたり」に絶望。

婚約解消したという記事でした。

私自身も生まれたときから、大阪の中心地に近い住宅街で生まれ育ちました。

田舎暮らしは、一度も経験がありません。

大学時代の友人が中国地方のある田舎町出身で、実家に帰るときはいつもご近所の目を気にしていたのをとても不思議に思っていたのを思い出します。

本書は、ちょっとコンビニに行くのも歩いて20分ほどかかる田舎の村が舞台です。

都会では、隣に住んでいる人の顔さえ知らないことも普通にあります。

それが、田舎では「自分が知らない人までが自分のことをよく知っている」ことの怖さが。

しかし、それが田舎の良さでもあると言えます。

困ったときに、すぐに手を差し伸べてくれるからです。

著者がこの『穴』という小説の中で何を描いているのかは、明確には、私にはわかりません。

しかし、「黒い獣」や「得体のしれない穴」こそが、田舎町の怖さ。

そして、この「黒い獣」は、ある場面であさひを助けてもくれるのです。

下手なホラーよりよっぽど怖い

本書は、読み始めからずっと「怖い、怖い」と思いながら読み進めていました。

ちょっとしたホラー小説よりよっぽど怖いです。

人が残酷に殺されるわけでもなく、幽霊が出てくるわけでもありません。

だけど、背中がゾクゾク、ときに「ある一文で固まる」怖さがあります。

また、この『穴』という小説は改行が極端に少なく、文字がダーッと書き連ねられています。

それも、ものすごく「怖い」。

小山田氏の作風なのかな…とも思いましたが、他の二編の短編「いたちなく」「ゆきの宿」はそうではないので、これはこの『穴』のための文体のようです。

本書は、どこか阿部公房氏の小説を思い起こさせます。(私は阿部公房氏の小説は『箱男』『砂の女』『壁』しか読んだことがないので的外れだったらすみません)

そして、一番怖いのが最後の一文です…。

しばらく、そのページから目が離せなくなりました。

最後に

後からいろいろと考えたくなる小説がお好きな方には、ぜひおすすめの一冊です。

この得体のしれない怖さ…クセになりそうです。

私は、小山田浩子氏の作品はこの作品が初めてだったので、デビュー作の『工場』も買ってみました。

以下の記事に『工場』の感想を書きました。

よろしければ合わせてご覧になってみてください。

ブラックユーモアと不条理の世界ー『工場』感想 著者 小山田浩子